Rett症候群はメチル化DNAに結合してグローバルに遺伝子調節に関わるMECP2遺伝子の変異による病気で、X染色体上にあり、男性ではほとんどが致死、一方女児では正常に誕生するが、発達に伴い神経系の様々な異常が発生する。ただ、神経細胞の変性は伴わないので、遺伝子機能を取り戻せれば症状もかなり抑えることができると考えられている。ただ、X染色体にコードされているため、正常細胞と異常細胞がキメラとして共存していること、そしてMECP2重複症からわかるように、遺伝子発現量を上昇させれば済む話ではない。そのため、例えば量をセルフコントロールする遺伝子治療(https://aasj.jp/news/watch/26480)が試みられている。
今日紹介するテキサス大学 South-Western 医学センターからの論文は、量を自己コントロールする遺伝子治療よりもう少し単純な方法で治療できる可能性を示した重要な論文で、3月4日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Modulating alternative splicing of MECP2 is a potential therapeutic strategy for Rett syndrome(MECP2遺伝子のオルタナティブスプライシングを変化させることでRett症候群を治療する戦略になる)」だ。
この研究はこの分野をリードし、Rett症候群とMECP2重複症の新しい治療可能性を続々提案しているZoghbiさんの研究室で、この論文を読むと彼女が日々これらの病気の治療可能性を考えていることがわかる。さて、今回提案された戦略はタイトルにある、MECP2遺伝子のスプライシングを変化させ、遺伝子量を調節するというアイデアだ。
このアイデアの元は、2012年に我が国の国立神経研究所がJBCに発表した論文だ(Vol287, 13859, 2012)。MECP2はスプライシングの違いでe1とe2の2種類のRNAが出来るが、e2が出来ないようにしたマウスでは、MECP2発現量の変化で胎盤形成に影響はあるものの、生まれてきてからはほとんど正常であることを示す研究だった。
Rett症候群の遺伝子変異の多くは機能が低下していても、発現量を4倍ぐらいに上げてやるとなんとか病気を発症せずに済むことがわかっている。さらに、e2は翻訳効率が悪く、その結果、e1からのタンパク質量が相対的に低下している。従って、スプライシングをスキップさせて、e2が出来ないようにしてやると、翻訳効率の良いe1mRNAが増えて、トータルのタンパク量が変異による機能低下をカバーするところまで高められると着想した。
この研究はこの着想を細胞レベルで定量的に調べ、e2をスキップすることで、Rett神経細胞に起こっている遺伝子発現異常のかなりの部分を正常化できることを確認している。もちろん機能低下が強い突然変異では回復は弱いが、それでも遺伝子発現上正常化への変化が認められる。さらに、神経細胞の興奮も一定程度の回復が見られる。
この結果に基づき、生まれた日にマウス脳にエクソンをスキップさせるモルフォリーノRNAを注入すると、脳全体のMECP2タンパク量が2倍近く上昇する事を示している。
結果は以上で、現在治験が行われている治療法より、より簡単な方法で、遺伝子導入が必要無いことから、早期診断、早期治療のスキームは比較的早く臨床応用が進む可能性がある。問題は、遺伝子導入と異なり、いつまでもモルフォリーノ投与が必要になる可能性だ。マウスの実験では14日まではタンパク質の量が維持されていたので、期待は持てるが、今後の長期観察実験が必要になるだろう。
逆にe2だけが合成されるような方法があれば、MECP2重複症も治療する可能性が出てくる。簡単ではないと思うが、このグループなら考えつくかもしれない。
