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6月14日 米国臨床腫瘍学会での新しいRas阻害剤への大喝采の裏で進む地道な努力(5月14日号 Cell オンライン掲載論文)

2026年6月14日
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今年の米国臨床腫瘍学会の話題がフェースブックに上がっていたが、ダントツでアップロードが多かったのが変異を問わない K-ras阻害剤 daraxonrasib がステージ4の膵臓ガンの生存期間を大幅に延長したという結果で、フェースブックには大会場の聴衆がスタンディングオベーションしている写真やビデオがアップされている。

Revolutiona Medicine の抗Ras戦略については2023年に紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/22741)3年で第三相まで終えたのは本当に早いと思う。この結果は、5月31日号の The New England Journal of Medicine に発表されているが(DOI: 10.1056/NEJMoa2605555)、同じ論文を読んでわかるのは、1年目の再発で見ると従来の化学療法と変化がなくなってしまう点だ。即ち、最初劇的に効き、ガンが縮小するため生存期間が延びても、再発は免れないということだ。これは先行する G12C変異特異的ソトラシブ にも言える。

今日紹介するスローンケッタリング ガン研究所からの論文は、ダラクソンラシブ治療で起こってくる再発の原因を調べ、次のステージに備えるための地道な研究で、5月14日号の Cell に掲載されている。タイトルは「Disrupted molecular glue complex drives RAS inhibitor resistance(分子糊複合体の破壊がRas阻害剤耐性を生む)」だ。

研究では肺ガン、直腸ガン、メラノーマで治療を受けて再発した人のガン組織のゲノム解析から、ダラクソンラシブに耐性のメカニズムを探っている。予想通り、Ras と相互作用する RAF 等のシグナル分子の変異が多く見られるが、変異のタイプはかなり多様で、一個づつしらみつぶしにと言うわけにはいかない。

幸いこの薬剤は、Ras に結合してサイクロフィリン (CYP) をリクルートして Ras活性をブロックする、まずこの薬剤と Ras の相互作用を阻害する変異から研究を進め、Ras側の変異として Y64 と Y71 を特定している。即ち、この変異が起こると Ras の分解が起こらなくなる。分子構造レベルで解析を進めると、Y64 はRasと薬剤の結合を直接阻害して、Ras/CYP複合体の形成を阻害する。これに対し、Y71H変異はRasの構造を変化させ、Rafとの相互作用を高めることで、Ras/CYP複合体の結合を競合的に阻害することがわかった。

次に Ras にリクルートされる CYPA側の変異についても調べ、ダラクソンラシブと CYP の結合を弱める4種類の変異を特定している。

最後に、多くの患者さんで見られた下流遺伝子の変異についても検討している。もちろん Raf の活性化変異による耐性獲得などはこれまでも指摘され、Raf に対する薬剤を併用することで克服する研究が行われている。ただ、ダラクソンラシブを用いた変異の中に、なんとリン酸化活性を失った Raf の変異が数人に認められ、何故 機能不全型Raf が耐性を誘導するか調べている。詳細を割愛して最終結論だけを述べると、キナーゼ活性を喪失した Raf はダイマーを形成して、Ras へのダラクソンラシブの結合を阻害することを明らかにしている。Raf の代わりの下流シグナルはガン細胞に存在しているので、Ras シグナルは他の経路でガンの増殖を維持できる。

以上、Raf変異も含めて、Ras/ダラクソンラシブ/CYP の複合体形成が抑制されてしまう、薬剤耐性メカニズムを明らかにした上で、これを克服する方法として、Y64変異の影響を受けにくい薬剤が既に開発できること、またダラクソンラシブをRaf阻害剤と併用することで、キナーゼ活性を失ったRafによる薬剤耐性も克服できることを示している。

以上が結果で、最終治癒手段にはならないと言われている標的薬治療を、ガンの変わり身に先回りすることで最終手段にしたいという強い意志の感じられる研究だ。喝采の裏で次の手が研究されている。

ダラクソンラシブ以外にもペプチド薬や大きな領域をカバーするRas阻害剤が開発されつつある。これらも、耐性を克服する方法として使えることを考えると、ダラクソンラシブが開いてくれた膵臓ガン抑制への入り口はますます発展すると思う。

  1. okazaki yoshihisa より:

    1:Y64 はRasと薬剤の結合を直接阻害して、Ras/CYP複合体の形成を阻害する。
    2:Y71H変異はRasの構造を変化させ、Rafとの相互作用を高めることで、Ras/CYP複合体の結合を競合的に阻害する。
    3:CYPA側の変異についても調べ、ダラクソンラシブと CYP の結合を弱める4種類の変異を特定。
    Imp:
    20世紀までの常識を覆す創薬技術の進化!
    IL2も薬になりそうな時勢です。

  2. YH より:

    米国やヨーロッパや中国では確実に、日本もそうあって欲しいが、がんであれ神経難病であれ、対象疾患との戦い/研究に絶対負けないという気概があり、常に分析をして、前に進んでいるのがすばらしいと思う。正解がどこにあるのかわからない研究では知恵を出し合って、どんなリスクでも背負う覚悟で努力して欲しい。方向性を探る基礎研究の結果からでは大規模な臨床研究はしにくいが、最低限の倫理性を担保した30人程度の小規模の先端臨床研究は今後の日本には絶対必要と思う。そのような枠組みとして大学の寄付講座には使命があるような気がする。過激な意見かも知れませんが、2010年以降の研究の進み方をみているとそれ以外の手立ては私には思い浮かばない。

    1. nishikawa より:

      同感です。寄付口座も、今ある姿とは大分違ったものにすべきではと思います。

  3. okazaki yoshihisa より:

    小規模でokなので、前臨床シーズのpocぐらいまではスムーズに可能なシステム構築が必要だと思います。
    今や、前臨床➕小規模臨床治験pocまでがワンセット。
    そうでないと、世界で相手にされません。

    1. nishikawa より:

      患者になってみると、様々な可能性が思いつきます。もちろん自分のガンで様々なことを試すわけにはいきませんが、様々な思いつきを治験として進められる、サポートが必要かと思います。ただ、国や企業だけでなく、患者も参加した仕組みが大事かと思います。このような仕組みでは、単純な無作為化コントロール治験は馴染まないように思うので、統計的にも新しい工夫が必要になるでしょう。

  4. NS より:

    西川先生はダラクソンラシブの作用機序を誤解されており、このポストの内容も不正確なものになっています。
    ダラクソンラシブはPROTACのようなdegraderではないためRASの分解を促進しませんし、作用機序が近しいRMC-7977の例を鑑みれば、むしろ蓄積させるかもしれません(doi: 10.1038/s41467-025-67109-5)。

    1. nishikawa より:

      有り難うございます。手術前なので訂正できませんが、おっしゃるとおりで私もそう紹介しています。

      1. nishikawa より:

        訂正しました

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