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8月12日 気になった臨床研究(8月5日号Science Translational Medicine掲載論文他)

2026年8月12日
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今日は最近気になった臨床研究を3編紹介する。

最初はハーバード大学からの論文で、大人のピーナツアレルギーの反応性を便移植で改善できることを示した臨床研究で、大人の食物アレルギーを対象にしたという点では最初の治験研究と言える。タイトルは「Fecal microbiome transplant in food allergy in humans and mice identifies a role for bile acid metabolites in oral tolerance(マウスとヒトでの食物アレルギ―の便細菌叢移植による治療はトレランス誘導に対する胆汁酸の役割を明らかにした)で、8月5日号Science Translational Medicineに掲載された。

ピーナツアレルギーの成人(18歳から33歳)15人にカプセルに入った健康人便由来の細菌叢をカプセルに詰めて経口投与する。その後1ヶ月、4ヶ月後にアレルゲンテストを行い、移植前より皮膚反応の閾値が上昇している場合をレスポンダー、変化がなかった場合をノンレスポンダーとしている。

結論だが、4ヶ月後で見て6人がレスポンダーとして確認され、細菌叢移植によって大人のアレルギーを抑えられることが示された。レスポンダーは半数以下だが、4ヶ月にわたってアレルゲンの閾値が低下したことは大成功と言える。おもしろいのは、2月に紹介した便移植では(https://aasj.jp/news/watch/28246)、ガンのチェックポイント治療の際の免疫を増強する方向に働き、今回は免疫を抑える方向に働く臨機応変のフレキシビリティーは不思議だ。と言うのも、この研究では、アレルギーが抑えられるメカニズムを探っており、

  1. レスポンダーでは制御性T細胞が末梢血で上昇している。
  2. 便移植後アレルギーが抑えられた患者の便を無菌マウスに移植すると、卵白アルブミンアレルギーが抑えられる。
  3. 便移植自体で明確な細菌叢の変化を誘導はしないが、これまでアレルギーを抑えるとされてきた一部のBacterioidesが増え、Bacteriodesによる胆汁代謝によりCholateやTauroccholateが合成され、制御性T細胞が誘導される。

と言う過程が起こっていることを明らかにしている。

結果は以上で、なんと言っても15例中6例で4ヶ月以上続くピーナツアレルギーへの感受性が低下したことを示したのがこの治験だ。しかも、レスポンダーとノンレスポンダーで、抑制性T 細胞の誘導で様々な点で大きな違いがあることがわかったことから、移植細菌叢の定着をより確実にすることで、治療効果を上げられる可能性が高い。しかし、同じ方法が免疫を促進したり、抑えたりするメカニズムが今後最も重要な課題になる気がする。

次は英国ロンドンキングスカレッジからの論文で、このブログで何度も紹介した幻覚剤シロシビンがうつ病に実際に効果があるかどうかを確かめた臨床治験で、8月6日Nature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Psilocybin-assisted therapy for treatment-resistant major depressive disorder in a public healthcare setting: a randomized controlled trial(難治性のうつ病のシロシビンによる治療を公的医療サービスのセッティングで行う:無作為化対照治験)」だ。

シロシビンについてこのブログで最初に紹介したのは2021年の話なので、もっと多くの臨床治験が行われているのかと思っていたが、正常ボランティアを用いた第一相、その後の小規模治験の上に、2021年から60名の、他の治療に抵抗性の重症うつ病を無作為化してシロシビン投与を行っている。

投与方法は、指定病院を受診、医師の診察を受けた後、25mgシロシビンを経口投与、その後は医療スタッフが様子を観察、最終的に正常に戻ったことを確認して、帰宅させている。そして3週後、6週後にうつ状態について自己診断及び専門家の診断により評価している。

結果は期待通りで、いずれの指標も大きな改善が認められるいっぽう、安全性は高い治療であると結論している。唯一この治験の問題は、シロシビンを投与されたか、偽薬だったのかが患者さんにすぐわかる点だが、これを持って効果なしとするわけにはいかないほど有効性が高い。今後は症例を選んで治験が拡大すると思う。

うつ病に関して、少し古いが最後にもう一つおもしろい論文を紹介して終わる。エジンバラ大学からの論文だが、対象はスウェーデンの電子カルテレコードで、GLP-1受容体アゴニスト(GLP-1RA)を用いた糖尿病患者さんと、他の治療を受けた糖尿病患者さんの中から、うつ病患者さんを選び出し、GLP-1RA使用によりうつ病が改善することを示した研究で、今年4月The Lancet Psychiatriに掲載された。タイトルは「Association between GLP-1 receptor agonist use and worsening mental illness in people with depression and anxiety in Sweden: a national cohort study(GLP-1RAとうつ病や不安症:スウェーデンの国家コホート研究)」だ。

電子データの解析からスウェーデンでは1/4の糖尿病患者さんがGLP-1RAを処方されている。GLP-1RA以外の方法で治療されている患者さんと比べると、不安症もうつ病もともに症状が悪化するリスクが大きく低下している。即ち、GLP-1RAを用いると不安症やうつ病の症状の悪化が防げる。

ただおもしろいのは、同じGLP-1RAでも薬剤によって大きく違いがある点で、1番効果があるのがセマグルチドで、次がリラグルチドになる。もともと、血中動態からセマグルチドの方が抗糖尿効果があるので、この差からGLP-1Rへの効果がうつ病や不安症に効いている可能性が示唆される。実際、より古くから使用されており、現在ではほとんど使用されないエキセナチドを投与された人では、逆にうつ病が悪くなる率が上昇している。

結果は以上で、少なくとも糖尿病患者さんでうつ病がある場合はセマグルチドによる治療が勧められるという結果だ。いずれにせよ、糖尿病にも効果が高いセマグルチドが最も効果を示したことは、GLP-1Rがうつ病や不安症にも関わる可能性を示唆するおもしろい研究になる。

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