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11月1日 気になった論文や記事3題(10月20日号Science掲載コメンタリー他)

2016年11月1日
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    もともと今日はスウェーデン・ルンド大学からの、ヨーロッパアマツバメは10ヶ月続けて空で過ごすことがあることを示した11月21日Current Biologyに掲載予定の論文を紹介しようと思っていた。ところが朝日新聞のワシントン支局小林記者がこの論文を紹介しているのを知った(http://www.asahi.com/articles/ASJBY2HKQJBYUHBI009.html)。よくまとまった記事なので、あえて私が紹介することもないと思い、ここでは簡単に触れて、他新聞記事になりそうな話を2題紹介する。ヨーロッパアマツバメに関しての感想だが、活動を長期間記録するロガーがここまで軽量化できているのかと驚いたし、この論文により、私が今年8月に紹介したグンカンドリは飛行中も寝ることができることを脳波記録から示した論文も間違いないことを確認した(http://aasj.jp/news/watch/5615)。
   最近面白いと思った記事の一つが10月20日号のNature(Vol 538, 290p)に掲載された、Sara Rearoon編集者の記事「Scientists who back Trump (トランプ支持の科学者)」だ。
   アメリカ大統領選挙まで後1週間。両候補ともスキャンダルにまみれた、前代未聞の選挙戦になっているが、それでもクリントンはリベラル、トランプは保守といった図式はあるように見える。では、アメリカの科学者は両候補についてどんな意見を持っているのか気になるが、それに上手に答えたレポートだ。
  記事はトランプ支持のKaylee(偽名)さんというカソリック教徒のポスドクが、今の大学の雰囲気では、トランプ支持を公にすると研究職を失うかもしれないと語るところから始まっている。すなわち、大学や研究所のほとんどが今回は反トランプでまとまっており、トランプ支持者は頭がおかしいのではと迫害されるというのだ。もともとアメリカの大学の教授陣はリベラル派が多い。これにトランプの女性差別や人種差別発言が重なり、大学内がリベラル派以外を排除するところまでに至っているという話だ。
    さもありなんと納得の記事だが、記事の中でリベラル支持の大学の雰囲気を示すため、科学者がリベラルと保守のどちらを支持するかについて分野別に調べた統計が掲載されており、面白かったので最後に紹介する。
   統計では各分野の科学者に、リベラルか、中道か、保守か、あるいはそれ以上に左翼か、右翼かを選ばせている。グラフで示されており、正確な数字ではないが、まずほとんどの分野でリベラル傾向が圧倒的に強い。リベラル傾向の強い順に分野を並べると、天文学、社会学、生物学、地質学、物理学、化学、数学、経済学、そして工学と続く。工学や経済学に保守・中道支持が多いのはなんとなくわかった気になるが、他の分野の順序、例えば生物学の方が数学よりなぜリベラルが多いのかなどはよくわからない。しかし、面白い統計だともと科学者の私は不思議と納得した。一般の方の意見も聞いてみたい。
   最後に紹介するのがスペイン・マドリードコンプルテンセ大学からの論文で、リーマンショックに始まる不況は、皮肉にも死亡率の低下をもたらしたことを示す調査でThe Lancetにオンライン掲載されている。タイトルは「Mortality decrease according to socioeconomic groups during the economic crisis in Spain: a cohort study of 36million people(経済危機期間中、経済的状態によっては死亡率が低下する。3600万人のコホート解析)」だ。
   この論文を読むまで、経済危機によって死亡率が上昇すると思っていたが、これまで多くの国で行われた統計調査では、経済危機により一般的に死亡率が低下することが示されていたようだ。
    この研究では、2001年時点で10−74歳までのスペイン国民3600万人を選び、リーマンショック前後で死亡率を調べている。これまでの研究と同じで、リーマンショック後、全体の死亡率とともに、様々な疾患による死亡率も低下しているという結果を示している。例外はがんによる死亡率で、逆に増加が見られている。
   死亡率の低下は、所得の低い階層に特にはっきり認められることから、生活困窮により死亡率が上昇するというのは、おそらく先進国には当てはまらないという結果だ。
   私が一番驚いたのはスペインでは自殺による死亡率も減少していることだ。私もそうだが、不況により自殺が増えると思うのが常識だ。実際、米国の統計では、経済不況は低所得者層の自殺を増やすことが示されている。我が国の自殺統計を見ると1993年バブル崩壊後上昇を始め1998年に大きく跳ね上っている。スペインと同じ時期のギリシャの経済危機でも自殺率は増加している。   不思議なことに、スペインだけが違うようだ。「Hasta manana! 明日は明日」と挨拶するスペイン人の国民性かと変に感心してしまった。    

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