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11月22日:リン酸化Tauはアルツハイマー病の神経死を防ぐ(11月18日号Science掲載論文)

2016年11月22日
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    アルツハイマー病の病理像の特徴は、細胞外にβアミロイドが蓄積し、細胞内にはリン酸化Tau分子を含む線維性のタンパク質の凝集が起こることだ。ただ、細胞の内と外とは言え、両タンパク質の相互作用により、異常蓄積が起こると考えられている。例えばTauタンパクをノックアウトするとβアミロイドの毒性が消失することが知られており、両者の密接な関係を示唆している。
   今日紹介するオーストラリア・New South Wales大学からの論文はこの過程に関わるリン酸化酵素を特定しようと研究するうち、思いもかけずリン酸化Tauがβアミロイドの毒性を抑制することを発見した論文で11月18日号のScienceに掲載された。タイトルはズバリ「Site-specific phosphorylation of tau inhibits amyloid β toxicity in Alzheimer’s mice(アルツハイマー病マウスでTauの部位特異的リン酸化はアミロイドβの毒性を阻害する)」だ。
   この研究はアミロイドβがグルタミン酸受容体を介して示す神経毒性を、PTZによる痙攣発作誘導の強さで測定する方法を用いて調べる実験系で、p38ファミリーのリン酸化酵素遺伝子をノックアウトして痙攣発作を調べ、リン酸化酵素を特定しようと試みている。αからδまで四種類のp38遺伝子をノックアウトしたマウスの痙攣発作を調べると、p38γをノックアウトしたときだけ痙攣が強くなり、またアミロイドβを過剰発現するマウスと掛け合わせると記憶の低下が促進される。 すなわち、p38γによるリン酸化がアミロイドβの毒性を抑えている可能性が浮上した。
   次に、このp38γノックアウトによる効果とTauとの関わりを調べるため、Tauノックアウトマウスと掛け合わせる実験を行い、アミロイドβの神経毒性にはTauタンパクが必須であることを明らかにした。
   最後に、Tauリン酸化からアミロイドβによる痙攣までの生化学的プロセスを検討し、Tauの205番目のスレオニンのリン酸化により、シナプスの足場になるPSD-95分子と、Tau, そしてリン酸化酵素Fynの結合が阻害されることで、アミロイドβの神経毒性が低下することを明らかにした。
   話はこれだけだが、これまでリン酸化Tauというと全て悪者扱いしていたが、2o5番目のスレオニンのリン酸化はアルツハイマー病での神経毒性を抑えているという、思いもかけない結果だと思う。
   最近紹介したBACE阻害剤の開発研究(http://aasj.jp/news/watch/6016)といい、アルツハイマー病の研究は一段と加速している印象がある。論文ウォッチャーとしては興奮が途切れない、面白い時代に入った。
  1. 橋爪良信 より:

    これは驚きです!

    1. nishikawa より:

      わたしもです。

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