上に述べたように、この研究は個々の樹状突起を観察する方法をいち早く導入してただ観察しただけの研究と言っていい。しかし2月10日に紹介した研究が示したように(http://aasj.jp/news/watch/6474)、眠りによりシナプスがどう変化するのか、まず形態的に調べることが重要で、紹介した研究では電子顕微鏡を用いた研究により眠りはスパインを減少させるとともに、結合が確定したシナプスをより強固な結合へと変化させることが形態的に明らかになった。ただ電子顕微鏡でわかるのは最終結果だけなので、この方法では多くの樹状細胞を統計的に調べて何が起こっているかを想像するしかない。一方、今日紹介する論文では、スパインができるのを確認した後、その消長を継時的に追跡することができる。また、脳波と同時記録することで、睡眠のステージを特定することができる。さらに、スパインの消長と機能を調べることもできる。
この研究では、記憶の固定に重要な働きをしていると考えられているREM睡眠に限って、スパイン形成に及ぼす影響を観察している。結果だが、
1) REM睡眠時間は発達期に長く、その時多くのスパインが形成される。
2) 学習時にスパインは増加するが、REM睡眠に入るとスパインが剪定され、数が減る。
3) スパインが剪定されることで、次の学習でスパインが新しく発生しやすくなる。
4) 発生や学習で新しくできたスパインを追跡すると、REM睡眠はスパインを一部のスパインを長期間維持する方向に働く。
5) REM睡眠時に樹状突起で見られるカルシウム流入はNMDA型グルタミン酸受容体の活性化を通じてスパインの剪定と、増強の両方に関わる。
とまとめられる。
結果としては2月10日に紹介した論文とよく似ているが、その時睡眠と一般的に特定した中でも、REM睡眠がスパインの消長に直接関わっていること、REM睡眠により実際運動機能が高まるという機能的効果が明らかにされていること、そして反応に関わるチャンネルや受容体が明らかになっている点が新しい。いずれにせよ、これまでの研究はREM睡眠によるシナプスの選択と集中がスパインの形態的特徴を基盤に行われ、学習の固定と、次の学習に備えることがわかったが、最初の形態変化の差がどのように生まれるのかの解明が次の課題になるだろう。