ところが今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はTregが炎症を抑えるだけでなく育毛を直接促進するT細胞として働くことを示す研究で6月1日号のCellに掲載されている。タイトルは「Regulatory T cells in skin facilitate epithelial stem cell differentiation (皮膚に存在する抑制性T細胞は上皮幹細胞の分化を促進する)」だ。
この研究ではまず毛根近くに分布するTregの数が、毛周期の休止期に多く、成長期になると低下することを明らかにする。次に、Tregのみ除去する遺伝子操作を受けたマウスを用いて、毛を強制的に抜いた後Tregを除去すると、上皮細胞の細胞の増殖と分化が抑制され毛の再生が極端に遅くなる。また、Tregは幹細胞が存在しているバルジ領域に多く存在している。以上のことから、Tregは確かに毛根の再生に関わることが明らかになった。
おそらく著者らもこの現象が炎症を抑えて幹細胞を守るためだと考えたのだろう。実際RAG1/2が欠損してリンパ球が全くないマウスも禿げているわけではなく、Tregがないと毛が生えないわけではない。しかし、Tregが除去されると毛根周りで炎症が高まるか調べ、毛を抜いて再生を見る実験系ではTregが炎症を抑えているわけではないことがわかった。
そこで今度はTregが直接毛根幹細胞へ働いている可能性を調べるため、休止期の皮膚に存在するTregとリンパ節内に存在するTregを比較し、毛根の発生に関わることがわかっているNotchリガンドの一つJagged1が皮膚のTregだけで強く誘導されることを発見する。Jaggd1発現をTregで抑えると、やはり毛の再生が低下することを明らかにしている。
結果は以上で、Cellレベルの論文として物足りなく感じるのはポジティブな実験が行われていないことだ。まず、TregのJagged1発現を誘導するのがどの刺激かわかっていない。抗原特異的なのか、そうでないのか。これがわからないと、Tregが毛根に集まる理由も全くわからない。これを知るためにも、例えばRAG2 ノックアウトマウスに様々な抗原特異性を持ったTregを移入する実験もほしいところだ。確かにsoluble Jagged1-Fcを投与する実験を行っているが結果は中途半端だし、やはりTregに恒常的に発現させる実験が必要だと思う。
専門的には不満の残る論文だが、一般の耳目を集める意味があると編集者も採用したのかもしれない。そういえば、ずいぶん昔だが、γδT細胞がなくなると、腸の絨毛が短くなるという論文もあったのを思い出した。