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8月21日:乳酸菌は開発途上国の子供を救う(Natureオンライン版掲載論文)

2017年8月21日
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21世紀に入って、NatureやScienceのような一般読者を持つ科学誌が、貧困や格差問題など21世紀に解決すべき課題に関する科学研究をかなり重視し始めている印象を持つ。と同時に、これらの雑誌ではあまりお目にかからない臨床治験のような研究もしばしば目にするようになっている。意図するしないを問わず、このことは人間を直接の対象とする研究が、21世紀の重要な柱になっていくと予想しているように思える。考えてみれば、ゲノム、iPS、単細胞解析技術などのお陰で、ヒトの生物学や病理学の研究が急速に進み出したことは確かだ。

今日紹介する米国ネブラスカ大学とインドのアジア衛生研究所からの共同論文は、普通なら臨床雑誌に掲載されるような完全な臨床治験論文だが、開発途上国の新生児に乳酸菌とオリゴ糖を1週間投与し、その感染予防効果を確かめた研究で、Nature オンライン版に掲載された。タイトルは「A randomized symbiotic trial to prevent sepsis among infants in rural India(シンビオティックのインドの田舎の子供の敗血症に対する予防効果を調べる無作為化治験)」だ。

これまで乳酸菌やビフィズス菌の乳児の腸炎予防効果については様々な治験が行われ、私のブログでも未熟児壊死性腸炎へのビフィズス菌の効果を調べた論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/4488)。この論文もそうだったが、これまでのプロバイオやプレバイオの研究はそれほど目覚しい結果を示せていない。従って、我が国でもビフィズス菌や乳酸菌は、医療の領域ではなく、個人の健康志向による選択の域に止まっていた。

この研究では、今も多くの子供が感染症で亡くなっているインドの田舎で生まれた新生児を対象に、米国のバイオバンクに登録されている腸に定着することが確認された乳酸菌株に果糖ベースのオリゴ糖を合わせたシンバイオ剤が感染症予防効果を示すか調べている。

   治験は厳密で、二重盲検無作為化が完全に行われ、生後24時間から96時間にシンバイオか偽薬の経口投与を始め1週間続けるというプロトコルを用いている。投与は経口でカプセルを服用させるため、訓練された看護師により毎日投与されている。結果の判定も、敗血症発症数+死亡数と簡単なものにして人為的操作が加わらないようにしている。加えて、他の感染症の予防効果を2次評価基準として用いている。

詳細をすべて省いて結論を急ぐと、結果は予想以上で、敗血症数と死亡数を合わせた指標で見ると、9.4%が5.4%に低下、なんと40%の減少効果がある(経済発展著しいインドでさえ乳幼児期の敗血症感染による死亡がこれほど多いのかと思うとまだまだ格差問題が解決していないことを実感する)。また血中から菌が検出される明確な敗血症だけを対象にすると、その効果は高く、70%以上の減少効果がある。さらに他の感染症も防ぐ効果があることから、乳酸菌+オリゴ糖のシンバイオは乳幼児の感染予防に大きな効果が得られると結論している。
私も示された数字に驚く。極めて安価でしかも乳児期の限られた期間の投与でこれほどの効果があるなら、おそらくWHOやユニセフでも真剣に取り上げるのではないだろうか。もし成功すれば、大村さんのイベルメクチンのように多くの子供を救うことができるだろう。

子供を科学で救いたいという著者の気持ちだけでなく、このような論文をNatureのArticleとして取り上げた編集者の気持ちも伝わる論文だった。

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