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10月29日:アホロートルの四肢再生過程のsingle cell transcriptome解析(10月26日号Science掲載論文)

2018年10月29日
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たまに幹細胞の話を若い人にすることがあるが、再生現象を教える時、プラナリアとアホロートルの四肢再生は、解析が最も進んだ系の例として取り上げている。その時、プラナリアの再生はES細胞型、アホロートルの四肢再生はiPS型と教えている。というのも、プラナリアの場合、体の全ての細胞に分化できるES細胞とも言える幹細胞が身体中に存在し、障害を察知するとその細胞から分化を誘導して成熟細胞を作る。一方、アホロートル四肢再生の場合は、すでに分化していた間質細胞が多能性の幹細胞へとリプログラムされ成熟細胞をリクルートすることから、iPS型といっていい。

さて、これらのプロセスは現在single cell transcriptomeで詳しく解析が始まっておりプラナリア再生時の細胞分化のダイナミックスについては以前紹介した(http://aasj.jp/news/watch/8430)。今日紹介するオーストリア分子病理学研究所からの論文はアホロートル四肢再生にsingle cell transcriptomeを組み合わせて解析した研究で10月26日のScienceに掲載された。もちろん、責任著者の一人はこの分野の開拓者Elly Tanakaさんだが、ドレスデンからウィーンに移っても着実に研究が進んでいる。

以前紹介したプラナリアの研究とは違って、この研究ではこれまでTanakaらが開発してきた細胞系譜を追跡するためのトランスジェニック個体が使われており、これにより再生芽だけを解析したり、再生組織に存在する細胞の元々の起源を確かめたりできる。すなわち、single cell transcriptomeを統合した、総合的再生研究を行なっている。

研究では、これらのツールを使いながら、再生前の間質細胞が再生芽へと発展し、その後筋肉や骨にボディープランに合わせて分化していく様子を詳しく解析している。膨大なデータなので、詳細は割愛するが、ほぼ完全にこれまでTanakaらが提案していた仮説が正しいことが示された。しかし、この一言で終わってしまうのも、あまりにそっけないので、今回確認された重要な点だけ列挙しておこう。

四肢再生では、もちろん皮膚や血管は再生能力があるため、そのまま新生が起こればいい。問題は、骨や筋肉、そしてそれをつなぐ腱などをどう再生させるかが問題になる。これが組織中の間質細胞によってリクルートされることはわかっていたが、今回single cell analysisが行われた結果、間質細胞の中に特に幹細胞として再生に働くものがあるわけではなく、どの間質細胞集団からも刺激に応じて再生芽細胞ができることが明確に示された。また、筋肉や骨細胞から再生芽ができるわけでないこともはっきりした。

また、手を切断するとすぐに細胞外マトリックスを分泌するシグナルが間質に入っているが、このような炎症型の刺激により始まり、その後成熟型の間質が形成されると同時に、ボディープランに関わる分子の発現が見られる。このように、間質が再生をどうガイドするのかは、これからの問題になる。

どの細胞からできてきても、再生芽は極めて均一な集団で、この細胞へのリプログラム過程の解析は今後の重要な課題になると思う。しかし、腕の先と根元の方の再生に関わる細胞の起源は別々で、先の方は骨格近くにある間質細胞、根元の方は皮下の間質細胞に由来することを示している。

以上細胞レベルの解析により、仮設の大枠はそのままでも、さらに新しい課題とそれに挑戦するための道筋がはっきりと示されたと思う。基本的には、現象論だが、これがより分子メカニズムを対象にした研究に進む大きな後押しになったと確信した。

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