9月23日:腸で食べ物を感じる(9月21日号Science掲載論文)
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9月23日:腸で食べ物を感じる(9月21日号Science掲載論文)

2018年9月23日
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私たちにはもちろん食事の後の満腹感や、あるいは空腹感など、食事と関わる感覚を持っているが、これ自体は腸で感じるのではなく、食物摂取に伴うグルコースや脂肪酸の濃度を感知する脳の仕組みがこれに関わると習ってきた。他にも、腸内にある内分泌細胞の感覚器としての役割も明らかになっており、この刺激で消化酵素分泌を促す内分泌回路がよく知られている。

今日紹介するデューク大学からの論文は、これに加えて腸内の内分泌細胞の一部が感覚細胞として直接迷走神経とシナプス接合し、食事による刺激を早いタイミングで脳に直接伝えていることを示した研究で9月21日発行のScienceに掲載された。タイトルは「A gut-brain neural circuit for nutrient sensory transduction (腸から脳への神経回路が食事の感覚を伝達する)」だ。

この研究では最初から、腸管内分泌細胞の一部が迷走神経とシナプス形成していると決めて研究を進めている。もしシナプスを形成しているなら、当然前シナプス細胞としての分子を発現している筈で、免疫染色などで調べると、コレシストトキニンなどを分泌する細胞の20%ほどがシナプス形成に必要な分子を発現し、しかも感覚神経端末と接触していることを明らかにしている。

これがわかると、あとは実際にシナプス接合による刺激伝達があるのか、そして何に反応して脳に刺激が行くのか、このような直接脳へ食物の刺激が伝わることの意味は何かを調べることになる。この研究ではシナプスを越えて神経をラベル出来る狂犬病ウイルスの実験系で迷走神経節神経の一部が確かにラベルされることを明らかにしている。そして、この刺激伝達系の一部はショ糖やグルコースに反応して刺激を伝えるが、果糖には反応しないこと、またグルタメートを伝達分子として使って、迷走神経節細胞へ刺激が伝ることを明らかにしている。 刺激伝達はだいたい1分ぐらいをピークとする遅い反応で、匂いなどと比べても反応は遅いと思える。

さてこの細胞がショ糖などの食事の情報を腸から直接伝えていることは分かったが、この伝達経路が無いと何が起こるかについては残念ながら明らかになっておらず、いくつかの可能性が挙げられているだけだ。行動学上の機能を調べるには、おそらく腸管内分泌細胞でグルタメート合成系を潰して行動を調べるなどの研究が必要になるだろう。この機能がわからないと、面白そうな感覚神経系(第六感?)の存在は明らかだとしても、神経内分泌に加えて何故このような感覚系が必要なのか、もうひとつピンとこなかった。
カテゴリ:論文ウォッチ