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12月2日 胚選択で優れた子供を選択するのは難しい(11月27日号Cell掲載論文)

2019年12月2日

先日ゲノム情報からデニソーワ人の骨格を推察する研究を紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/11407)、本当に可能かという疑問は残るにしても、メンデル以来続いてきた遺伝学が全く新しい方向に進み始めたことを感じる。

これはイスラエルの仕事だったが、ゲノムから形質を予想する情報処理法の開発にイスラエルが力を入れているなと感じさせる研究が同じヘブライ大学から発表された。タイトルは「Screening Human Embryos for Polygenic Traits Has Limited Utility(複数の遺伝子が関わる性質を胚選択で達成するには限界がある)」で、夫婦が少しでも優れた子供を産むため、10個の胚の中から一番いい形質を持った胚を選ぶことができるかという問題を扱っている。

はっきり言って、この問題をシミュレーションで調べようと思いついた着想がこの研究のすべてで、あとは情報処理といってCellに掲載されるほどの新規性はほとんどないのではないかと思う(といっても数理については私は全く理解できていないので、そのつもりで読んでいってほしい)。

現在米国でなんらかの遺伝子解析を受けた人が2000万人を越したそうだが、100万を越すデータが集まり始めると、ゲノムから身長やIQを推察するための方法開発が加速している。この計算のために最もよく用いられるのがpolygenic score(PS)で、NBAのバスケットプレイヤーの一人の身長の高さが遺伝要因であることを示すことができている。また、掛け合わせのつがいを自由に選べる育種でも、PSは重要な指標として用いられている。

ただ、人間の場合子供は子供のために自由に生殖相手を選ぶというわけにはいかない。そのため、夫婦からできるだけ多くの受精卵を採取してゲノムを解析、その中でPSができるだけ高い胚を選ぶ方法が考えられる。この研究では、この方法でどの程度の期待する形質が得られるか、完全にゲノム解析が行われている102組の夫婦のコホートデータを用いてシミュレーションした研究だ。

通常体外受精の場合3−4個の胚が作られるが、この研究では10個の胚から選択するという状況で、身長とIQについて胚選択でどこまで高い子供を選択できるか計算している。

これは各夫婦がどPSに関わる多型をどれだけ持っているかに関わるが、多くの多型を選ぶことができて10個の胚を選択する場合でも、身長で3cm、IQで3ポイントあがるのがやっとであることを示している。さらに、選べる胚をさらに増やした場合の計算もしているが、だいたい15個でプラトーに達する。

結論はこれだけだが、これが正しいかどうかすでに子供が成長した28組の大家族で調べて、身長の違いを予測することは難しいことを示している。

もちろんさらに予測に使える多型が増えていくことも考えられるが、結局望む形質を選ぶ目的に胚選択は意味がないという結論になる。なるほどと納得する研究だが、考えてみると当たり前の話で、一般の人たちの倫理観の隙間をうまく利用して論文に仕上げただけの研究だと思う。とはいえ、このようなしたたかさの研究を繰り返す中で、ゲノムから形質を正確に予測する方法が開発されていく。研究にはコンピュータ以外必要ないので、ぜひ多くの若者にチャレンジしてほしいと思う。


  1. okazaki yoshihisa より:

    このような研究を繰り返す中で、ゲノムから形質を正確に予測する方法が開発されていく。

    Imp:
    1組夫婦あたり10個の胚から選択≒10人兄弟姉妹の中から両親が最も望ましいと考える子供を選ぶ
    10人が胚の段階でゲノム情報だけから選び出すのは、現時点では不可能。誕生後の教育、愛情、環境等でエピジェネティック変化を加えつつ育てていくことが、今のところ大事そう。DIYバイオ研究にも向きそうです。

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