米国FDAがエダラボン(三菱田辺製薬)をALS進行を遅らせる治療薬として認可した
創薬研究の施策と活動への希少難病患者の期待
『新薬候補、譲渡成立ゼロ』との見出しで4月末一部の専門紙に、日本医療研究開発機構(AMED)が運営する「創薬支援ネットワーク」が、2013年から大学での創薬研究から新薬に結びつきそうなテーマを採択して実用化を支援しているが、成果の主要指標である製薬企業への譲渡件数については、初年度として筋ジストロフィー治療研究の1件にその可能性が残されたのみであった、との記事が小さく出ていた。
AMEDは、44テーマについて有望と判断して資金や技術の援助をしたとしており、これらは同ホームページで『創薬支援ネットワークの支援テーマ(3月末現在)』 (http://www.amed.go.jp/program/list/06/theme_list.html ) として公表されている。製薬会社への譲渡で最も期待されたのは、具体的な化合物にまで絞られたテーマと思われるが、大学での限られた研究資源や化合物ライブラリーの範囲からの無理矢理な選別で、さらに研究当事者自身の判断に拠るものであって、緩い基準に基づいて選ばれた化合物と見做されるのが普通である。
現在までの支援テーマは、どれも精々前臨床段階にあるが、今後ともAMEDとしてこのような支援を継続するのであろうか?製薬会社に提示したときに、「興味深いが今の段階では導入可否の判断ができない。ヒトでのPOC(概念実証)が得られたら改めて連絡ください。」などと無責任に臨床第II相程度の治験の実施が必須とのごとく要望されることが多かったと思われる。しかし、薬物の治験(臨床研究)は、動物での安全性と有効性が確立し、確固たる市場性、経済性や承認の見通し立った候補化合物に限ってその研究者や組織の全責任で行うものであって、単に薬理学的推論の効果の立証を目的として、濫りにヒトを実験台にしてはならないことは言うまでもない。一般論として、公的資金での薬物の治験の実施は、極限られた場合や代替方法が絶無でのみ可能と考える。
全く新しい薬理、原理、メカニズムなどに基づく薬物治療法やスクリーニング方法などに科学的や第三者の理解や評価を得るには動物実験で十分であるし、有効な特許の取得も可能で、この段階で研究成果や技術として製薬会社への導出も十分に可能である。従って、大学では更に進めて一般的な新薬の創出を目指しての化合物スクリーニングや臨床研究を行うことは非効率であるし無駄な行為でもある。大学では、動物実験レベルで成果を纏めて国内外の企業に導出することとして、リード化合物の選定や至適化、非臨床試験などその後の開発作業は、そのライセンスを受けた製薬企業でなされるべきである。
AMEDの創薬支援ネットワークは、上記の惨めな現状に対して「企業のニーズの事前把握が不十分だったことを反省点とし、改善した上で大学での革新的新薬の創出活動(事業)の支援を続ける」としている。AMEDは、発足当初から国税600億円以上を既に本ネットワーク事業に投入していることになるが、それら投資の結果として何か具体的な成果を残せたのであろうか?反省点が前記で全てであって、改善点が明示されないまま、また具体的な改革策を示すことなく、本創薬支援ネットワークを当初の計画に沿ってこのままで継続させることが、許されるとは思えない。
一方、上記AMEDからのテーマ進捗表『創薬支援ネットワークの支援テーマ(3月末現在)』の末尾部に、熊本大学発生医学研究所の江良択実教授の『ニーマンピク病C型(NPC)治療薬の開発』が本創薬支援テーマに採択され、前臨床段階にあることが公示されている。
NPCは、ライソゾーム病の一種で、乳幼児からも発症し進行性であり国内の患者総数が50名程度の希少難病であって、指定難病である。細胞内コレステロール輸送障害による疾病で、肝臓、脾臓の腫れと神経症状が徐々に進行し重篤化する。ごく最近になって、厚労省未承認薬検討委員会発足により、唯一スイス国発のミグルスタットが早期承認されたが、症状改善は一応期待されるもののまだまだ満足する治療効果には程遠く、また根治は期待できない。
第2番目のNPC治療剤としてヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPBCD)が米国で 臨床開発中であるが、上記のとおり熊本大では2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン (HPGCD)という別個の関連化合物が、AMEDからも支援を受けてNPC治療剤として研究開発が進められている。
γ-CD体は、β-CD体に比べて、水に対する溶解性が高いためか、生体にはより安全とされており、コレステロール他被排泄(包接)物質に対する親和性や包接能も相互に異なるはずで、薬効の多様性が期待される。
幹細胞研究の権威の江良教授のグループは、iPS細胞出現の当初から希少難病治療の研究手段としてそれの活用に取り組んでおられ、今回も化合物スクリーニングに、NPC患者iPS細胞由来の肝細胞が用いられている。希少難病治療方法の研究に集中的に取り組む我国では数少ない基礎医学者であり、対症療法の本件を手始めに今後も継続してNPCをはじめライソゾーム病の根治療法の研究に取り組まれるものとその成果は大いに期待される。
希少難病治療用薬剤の研究開発は、その緊急性と専門性から個々の疾患について基礎研究段階から臨床開発、薬事承認と一貫性と連続性が非常に重要である。また、その市場性から例え開発途中からといえども民間企業の参入は、これまでの例外的なケースを除けば、殆ど期待できない。
AMEDにおいては、大学発の創薬支援テーマの採択にあたって、希少難病治療用薬剤の研究を重点的に採用し、一貫性を持って患者に投与できるまで支援を続けてほしい。この施策により、各大学において整備されてきた治験のための組織と施設が生かされる。さらに大学で生まれた希少難病治療薬創出研究の成果は、広く創薬研究のための革新的な基盤科学技術となり、民間に技術導出され応用・活用されることを期待する。(田中邦大)
「2014年に新たにFDAが承認した稀少難病治療薬」
米国において、2014年中にFDAが新たに稀少難病治療薬として承認した41品目の治療薬の抄録を公表しましたので、それにAASJで補ってEXCELに纏め掲載いたします。「商品名/一般名」をクリックすると、FDAホームページのODD(稀少難病薬指定)での各薬物の情報にリンクします。
2013年が32品目であったのに対して、昨年は41品目と22%増加しています。
これらの薬物の日本での適応症の状況を、難病情報センターのデータ( http://www.nanbyou.or.jp/ )を参照して、特定疾患治療研究事業(56疾患)および難治性疾患克服研究事業(130疾患:新たに公表された指定難病110疾患とも実質的に一致している)との関連について、現状を備考欄に記入しました。
これら41品目の適応症は、日本では未承認ですが、米国で承認されて、未承認薬等検討会議での検討必要要件を満たしましたので、我が国としての治療効果や疾病の実情を検討して、必要なら早急に対応すべきと思います。同検討会議は患者団体等からの追加承認の要望を常時受け付けています。 (田中邦大)
承認を受けた新規の稀少難病治療薬
厚生労働省は7月4日、新規有効成分の医療用医薬品やワクチンなどについて新薬22製品32品目に一斉の製造販売承認をしました。これらの製品に「難治性130疾患」(難治性疾患克服研究事業対象130疾患)に含まれる希少難病のゴーシェ病と骨髄繊維症の治療薬2品目が含まれています。承認申請資料や添付文書は未公開で、薬価も未収載ですが、概要を記します。
(1) 「ブプリブ(Vpriv)」 velaglucerase alfa( 遺伝子組み換え) [シャイア・ジャパン社]
ゴーシェ病は、ライソゾーム病の一種で、グルコセレブロシダーゼ欠損のより肝臓、脾臓、骨髄、神経にグルコセレブロシドという脂質が蓄積する遺伝性疾患で、国内推定患者数は100人未満とされていて、次の3種があります。
Ⅰ型(成人型)は、慢性非神経型で、肝臓、脾臓が腫れ、貧血が幼児期~青年期に発症します。骨がもろくなり、痛みや骨折しやすくなります。
Ⅱ型(乳児型)は、急性神経型で、肝臓、脾臓の腫れに加えて乳児期より痙攣などの神経症状が急激に進行します。 Ⅲ型(若年型)は、慢性神経型で、肝臓、脾臓の腫れに加えて神経症状を伴いますが、Ⅱ型より発病が遅く程度や進行も緩やかです。
治療法として、酵素補充療法または骨髄移植があり、ともに肝臓、脾臓の腫れや貧血には良い効果が見られますが、神経症状への効果は乏しいとされています。
「ビプリブ」は、酵素補充療法に用いるゴーシェ病治療薬で、ヒト細胞から製造され、天然の酵素と同じアミノ酸配列を有します。「ゴーシェ病の諸症状(貧血、血小板減少症、肝脾腫及び骨症状)の改善」に効能・効果示し、2010年2月に初めて米国で承認され、世界40カ国以上で販売されています。
(2) 「ジャカビ(Jakavi)錠」 ruxolitinib phosphate [ノバルティス ファーマ社]
骨髄線維症は、骨髄の広い範囲に繊維化がみられる疾患で、原発性と二次性に分けられます。原発性骨髄線維症とは、造血幹細胞の腫瘍性増殖により、骨髄の広汎な線維化と脾腫を伴う疾患で、骨髄増殖性腫瘍のひとつに位置づけられています。二次性骨髄線維症は、他の疾患に伴っておこる骨髄の線維化で、造血系腫瘍(白血病や悪性リンパ腫など)や結核などの炎症性疾患、膠原病および骨疾患などでみられます。
原因は、造血幹細胞に遺伝子変異が生じ、その結果血液細胞が増殖することがと考えられて、約50%の患者さんでは、JAK2という遺伝子に異常が生じています。骨髄の線維化の理由は、骨髄で増殖している血小板の母細胞である巨核球から線維芽細胞増殖を促す因子が産生放出されるためです。患者数は約1500人と推定されています。
ジャカビは、骨髄線維症を効能・効果とする新有効成分含有医薬品で、希少疾病用医薬品です。造血組織である骨髄が線維化することで、正常な血液の産生が妨げられる進行性の血液がんに対し、ジャカビはJAK1やJAK2を標的として脾腫の縮小や諸症状を改善することが見込まれるチロシンキナーゼ阻害作用を有する低分子分子標的薬です。米国では、Incyte社が、Jakafiとして2011年11月に承認を得ています。
両製品は、ドラッグ・ラグが生じることなく、速やかに承認申請、審査を経て上市されています。何れも稀少難病薬開発のインセンティブや報酬としての極端な高薬価と新薬創出加算を期待してでしょうが、国の積極的な施策に乗っての、アンメット・ニーズの稀少難病治療薬の出現と喜びたいと思います。ただ、両商品共に外資系企業の手になるもので、これら多額の健康保険からの資金が国外に流出することになります。なお、シャイア社は、アブビー製薬(アボット社の製薬部門の分離会社)に買収されることが決まったそうで、結局これら両社共に米・欧のメガ・ファーマとなりますので、国内企業も取り残されずに難病治療分野での奮起を大いに期待したいところです。
(田中邦大)
第19回未承認薬等検討会議 (厚労省)
4月22日に掲題「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」が開催され、昨年8月1日~12月27日に募集した「第3回開発要望(第1期)」(なお、今回から随時受け付けが加味され、短期間に集中的に応募を求めた第1~2回開発要望とは募集方法が変えられた。)の応募結果が報告された。
今回は約40の学会や団体から80件の要望と、募集期間の長期化にも拘らず、これまでの開発要望募集に比べて数分の一と大幅に減少している。この内、未承認薬8件と適応外薬2件の計10件については、今回から導入された「優先的に取り扱う対象」とされている。この数字を同検討会議は「未承認薬の問題が解消してきたことが実感できる」と評価しているが、応募対象薬物に対する厳しい条件から、条件を満たす候補薬物は世界を見渡しても見つけにくくなっており、そのとおりなのであろう。
いわゆる「ドラッグラグ」の解消を目的にした、過去5年間の厚労省と未承認薬等検討会議の尽力の成果であるが、「開発の必要性あり」とされたそれぞれ候補薬物の評価書の詳細、精緻、的確な内容とその後の開発と承認の結果を見ると、各難病治療の第一人者や開発経験者による審査体制の構築・確立も大いなる成果に挙げられる。
一方、我が国にも治療方法や治療剤が全くない数千種の稀少難病と数百万人のそれらの患者が存在するが、乏しい国内に対して欧米にはこれら稀少難病に対する新しい原理や機作に基づく候補化合物や稀少薬指定され治験中の薬物が多数存在し、バイオベンチャー各社において活発に開発が進められているものの、海外で既登録が要件とされこれら物質の応募は門前払いされるため、本未承認薬等検討会議で審理されることはない。今回構築された世界に誇りうる高度な当該審査とフォロー体制をもってすれば、他国でのデータ、審査と承認を要件とする現在の未承認薬等検討会議での採択条件を緩和し、開発中の稀少難病治療用薬物に対しても我が国独自の基準と能力で審理・判断して選択し、「開発の必要性あり」との決定も十分できるものと思われ、またこの決定を拠り所に開発に踏み出すベンチャー企業が現れるのを期待できる。
小児の稀少難病は、殆どが進行性であり、治療方法もなく日々悪化をおそれて生活し介護されている。遺伝性の疾病であることが多く、人種や環境に関係なく等しく一定の確立で発症して、国内のみならず世界中の難病患者と家族が治療薬の出現を熱望している。遺伝性疾患であることは、ゲノム創薬や分子標的薬など最新の創薬手法に馴染むとされ、創薬研究や薬効評価の対象の一端に何れかの稀少難病も加えられることを切望する。アベノミクスで成長戦略を担う日本版NIHにおけるテーマとしても取り上げて欲しい。因みにここ数年に出現した国内の新薬ブロックバスターは稀少難病治療薬で占めており、世界的にもブロックバスターのかなりが稀少難病治療薬である。
この機会に参考資料として、 以下に厚労省が発表した第1回~第3回未承認薬等検討会議での検討結果と進捗の纏めを引用します:
(1)第1回未承認薬等検討会議(募集期間:2009.6.18~8.17)。応募374件、評価186件、開発要決定(未承認薬57件:適応外薬129件)。
開発・承認状況:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000035155.pdf
(2)第2回未承認薬等検討会議(募集期間:2011.8.2~9.30)。応募290件、評価140件、開発要決定(未承認薬20件:適応外薬60件)。開発・承認状況:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000044392.pdf
(3)第3回未承認薬等検討会議(募集期間(第1期):2013.8.1~12.27)。応募80件。募集結果:
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000044388.pdf (田中邦大)
開発中医薬品の進捗「2013年ヘッドライン」 (Nature Medicine 12月号)
話題の医薬品候補化合物について、今年の開発の進捗概要を青、黄、赤の三色シグナルに分類して紹介されていますので、分かる範囲で国内や稀少難病関連の情報を補って、概略を転載いたします。
青信号
・免疫治療剤としての対PD-1 (Programmed Death-1)受容体抗体に関して、BMS社のnivolumab単独およびipilimumabとの併用により、進行性悪性黒色腫のフェーズI試験で著効を示し、また同効であるMerck社のlambrolizumab(MK-3475)は、FDAから画期的治療剤の指定を受けました。
・FDAは、転移性非小胞肺がんの治療剤として臨床開発中の、何れもALK蛋白に対する分子標的薬であるNovartis社のLDK378およびRoche社のalectinib(RG7853)に対して、共に画期的治療剤に指定しました。
・B.Ingelheim社のアンジオキナーゼ阻害剤「GILOTRIF」(afatinib)が、肺がん治療剤として米国および欧州の双方で承認を受けました。
・Isis製薬からライセンスを受けたGenzyme社のアンチセンス剤「KINAMRO」(mipomersen)が、家族性高コレステロール血症(FH)治療剤として米国で承認され、世界初の市販されたアンチセンスDNA医薬となりました。
・GSK社の1日1回服用のHIV治療剤「TIVICAY」(dolutegravir)がFDAの承認を受けました。本剤は、レトロウイルスDNAの宿主ゲノムに取り込みに必須の酵素integraseを標的とします。
・Bayer社の「ADEMPAS」(riociguat)が、何れも稀少難病である慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)および肺動脈性肺高血圧症(PAH)=公費負担対象の難病で、バイエル社は我が国でも承認申請済み=の治療剤としての承認について、FDAの優先審査の結果「青信号」が点りました。本剤は、可溶性guanylate cyclase (sGC)の刺激薬です。
・Novaltis社の卵巣ホルモンの一種で、ストレス緩和ホルモンとして知られるrelaxinの合成ペプチドserelaxinは、急性心不全についてフェーズIII試験中ですが、FDAから画期的治療剤の指定を受けました。
・J&J社の、ナトリウム−グルコース共輸送体タンパク(SGL-2)阻害作用を持つ「INVOKANA」(canaglifloin)は、FDAが未だに腎毒性の懸念を持ちながらも、2型糖尿病治療剤として承認しました。
・Pharmacyclics社とJ&J社は「IMBRUVICA」(ibrutinib)について 、マントル細胞リンパ腫(MCL)および慢性リンパ球性白血病(CLL)に対してのFDAから画期的治療剤の指定を受けて共同開発中ですが、11月に承認が得られました。
・Gilead社の「SOVALDI」(sofosbuvir)は、FDAでC型肝炎治療剤として優先審査中ですが、その承認への推薦がなされました。
・Roche社の、B細胞表面たんぱくCD20を標的とする「GAZYVA」(obinutuzumab)について、慢性リンパ球性白血病(CLL)の治療剤としてFDAの承認を得ました。
黄信号
・DPP4阻害剤: グルカゴンの分泌抑制作用を持つ、2型糖尿病治療剤としてBMS社の「ONGZYLA」(sexagliptin)とAstraZeneca社と武田薬品の「NESINA」(alogliptin)が発売されました。
・BRISDELLE(paroxetine): 最初の非ホルモン更年期障害治療剤として、FDAはNoven Therapeutics社の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である本抗うつ剤の低用量剤形を承認しました。
・DUAVEE(estrogenとbazedoxifeneの配合物):もうひとつの更年期障害治療剤としてRoche社の一過性熱治療薬の本剤が、FDAにより承認されました。
・Suvorexant: Merck社が不眠症治療剤として申請した、二重オレキシン受容体拮抗剤の本剤について、安全性に疑問ありと拒絶されました。本剤の低用量製剤については審査継続中で、覚醒神経伝達物質orexinを標的とする最初の承認取得治療剤になるのでしょうか。
・Ramucirumab: Lilly社による、転移性乳がんの腫瘍進行阻止と延命効果の試験は失敗しましたが、FDAは胃がんの化学療法剤として本剤を優先審査に付しました。
・Alirocumab: Sanofi社は、PSCK9酵素を標的とする本剤の、高コレステロール症に関するフェーズ3試験で良好な結果を得たと発表しましたが、副作用も多発しました。Pfizer社とAmgen社もそれぞれ同効薬を開発中です。
・Vercirnon: クローン病の治療薬としてフェーズIII試験中であるGSK社は、結果が思わしくないとして、全ての権利をChemoCentryx社に返却すると発表しました。同社は、化学シグナル受容体たんぱくCR9を阻害することにより腸の炎症細胞を消す本剤の、改めての開発計画を発表しました。
赤信号
・Dexpramipexole:Biogen Idec社が、FDAと欧州EMAの稀少難病の指定を受け、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療剤として規模拡大フェーズIIIの試験を行っていましたが、関節機能と生存の改善効果が得られず、開発を中止しました。
・TREDAPTIVE(laropiprantとニコチン酸の合剤): Merck社は、善玉コレステロール産生作用を持つニコチン酸(niacin)とその顔紅潮の副作用を抑えるlaropiprantとの合剤の、心血管系に高いリスクを持つ大規模な患者を対象とした投与試験で、症状の改善効果が得られなかったとして開発もしくは販売(欧州)を中止しました。
・Preladent: Ligand社からアデノシンA2A受容体拮抗作用を持つ本剤を導入したMerck社は、フェーズIII試験でプラシーボ群に対する優位な治療効果の立証に失敗して開発を中止しました。
・LY2886721: Lilly社は、神経変性症で脳内に蓄積する蛋白質の産生に関わるβ−セクレターゼの阻害剤で、フェーズIIにあった本剤のアルツハイマー病治療薬としての開発を、肝毒性のために中止しました。
・Drisapersen: GSK社とProsensa社は、dystropin蛋白に変異を持つ、稀少難病デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬としてフェーズIII段階にあったエクソン・スキップ作用の本剤の開発を、筋肉の消耗を低下できなかったとして、開発を中止しました。本剤は変異したdystropinのexon51遺伝子をカモフラージュして、本来の蛋白質を生産させます。別途、Serepta Therapeutics社では同様な作用を持つeteplirsenをDMD治療薬として開発中です。
・Gammagard: Baxter社では、本剤によるアルツハイマー病のフェーズIII試験において、免疫グロブリン療法による認識低下の減弱もしくは阻止ができませんでした。しかし、別の小規模試験においては、記憶消失を防止できました。同社は、現在被験者における別の側面からの有効性の試験を行っています。
・R343: Rigel製薬は、脾臓のチロシンキナーゼの阻害によって息切れを抑える本剤の、喘息患者でのフェーズII試験において、シャックリ発作が生じ、開発を止めたと報じました。
・MEGA-A3 vaccine: GSK社は、メラノーマ関連抗原を標的とする癌ワクチンである本剤が、皮膚がんの進行を抑制できなかったと公表しました。Agenus社が、腫瘍の免疫細胞を変化させるようにデザインしたもので、GSK社は、特定の遺伝子プロファイルの患者に対しての肺がんのフェーズIII試験を継続しています。 (田中邦大)
稀少難病ニーマン・ピックC型病に治療効果が期待されるボリノスタットについて
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害作用を有するボリノスタットは、第1回未承認薬等検討会議に開発要望書が提出されたことを端緒に早期審査を経て、皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)治療剤「ゾリンザ・カプセル」として、2011年7月からMSD社および大鵬薬品から販売されています。
米国Notre Dame大から、ニーマン・ピックC型病(NPC)患者の95%は、複数回膜貫通型膜タンパク質NPC1の遺伝子に変異が見られるが、HDAC阻害剤であるボリノスタットが、NPC1タンパク質を増やし、NPC患者由来の繊維芽細胞のコレステロール蓄積を減らした、と報告されました。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24048860 )
米国ではNPC患者を対象にしたボリノスタットの臨床研究が進んでいますので、本疾患の原因治療法としてのその結果に注目して、わが国でも適応外薬としてボリノスタットがNPC治療剤として早期に追加承認されることを期待しています。 (田中邦大)
FDAによる稀少難病研究基金支出準備完了
今年度から国内の有望な基礎研究の成果を実用化につなげるために、内閣官房を軸に、関係各府省・関係機関が連携し「創薬ネットワーク協議会」を構築し、医薬基盤研究所創薬支援戦略室がその本部機能を担っていますが、その重点領域の第2番目として「難病・希少疾病」が掲げられており、各疾病患者にとっても具体的且つ早急な進展や成果が待望されるところです。(関連して、日経バイオテク7月13日号も参照: https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120713/162149/ )
一方、政府機関の閉鎖が解けた米国食品医薬品局(FDA)は、早速稀少難病の治療に関する15の研究プロジェクトに対して総額約14億円の研究資金を提供して支援することになりました。これは、同国の希少難病薬法に基づく希少難病治療薬助成プログラムによるものですが、税務上の特典、申請費用の減額および独占販売期間の延長など企業の希少難病への創薬研究開発活動の現行支援策・インセンティブにさらに加わることになります。(PMLiVE 2013/10/22: http://www.pmlive.com/pharma_news/fda_supports_rare_disease_research_512037 ) (田中邦大)
米国政府機関(NIH、FDA)閉鎖に伴う患者と新薬承認への影響深刻
米議会での暫定予算不成立により、10月1日から一部の連邦政府機関が閉鎖されていますが、米国国立衛生研究所(NIH)で最先端の研究的治療を受ようとする患者は全て締め出されています。研究所長のDr.Francis Collinsは、子供で致命的な疾患の患者を除いては、受け入れることはできないと”悲痛”な状況であるといっています。(AP: http://abcnews.go.com/Health/wireStory/shutdown-means-nih-hospital-turn-patients-20435497 )
一方、米国食品医薬品局(FDA)でも、その主要業務である新薬承認審査が止まり、新薬承認申請(NDA)の審査の遅れは避け得ないようです。(http://blog.pharmexec.com/2013/10/01/government-shutdown-halts-fda-product-submissions/ )
特に新しい難病治療薬は、創薬段階から製造販売承認まで、全て米国の後追いの状況ですので、これら機関での業務の遅れは、わが国でもそのまま影響を受けることは自明で、対岸の火事では済まされません。 (田中邦大)
国立精神・神経医療研究センターがミトコンドリア病治療薬の臨床研究に入る
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、厚労省から特定疾患に指定されている稀少難病ミトコンドリア病の一種MELAS(脳卒中様症状を伴うミトコンドリア病)への治療効果を調べるために、米国ベンチャー企業のエジソン社が開発中の酸化ストレス除去剤EPI-743について、8月から同センター病院の神経内科および小児神経科で臨床研究に入ると発表しました( http://www.ncnp.go.jp/press/press release130809.html )。
EPI-743は、米国および欧州でミトコンドリア病の一種のリー脳症(ミトコンドリア脳筋症)を対象に臨床第IIb試験を実施中で、日本でも既に今年3月に大日本住友製薬が、エジソン社からライセンスを受け、同用途での開発を進めており(http://www.ds-pharma.co.jp/pdf_view.php?id=493)、本試験薬が両社と同センターでの臨床開発が、協奏的に加速され、これら適用範囲の承認を得て、早期にミトコンドリア病患者に届くことを期待しています。
このように国内外を問わず、産官学が協力して稀少難病治療薬の創出に取り組まれる事例が、最近散見されるのを知り、稀少難病患者の実態が、社会でも認知され始め、また科学と創薬技術の進歩に各種制度の整備も進んでいることを実感し、さらに他の稀少難病にも目が向くものと期待が広がります。 (田中邦大)