12月20日 高齢者の骨髄性白血病の治療に光明(11月20日Nature Medicine掲載論文)
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12月20日 高齢者の骨髄性白血病の治療に光明(11月20日Nature Medicine掲載論文)

2018年12月20日
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骨髄性白血病(AML)の根治目的には骨髄移植が用いられる。日本でも、骨髄移植によりAMLを乗り越えて何年も仕事を続けている俳優さんは、この病気の克服のシンボルとなって多くの患者さんを励ましていると思う。ただ、骨髄移植療法は高齢になると侵襲が大き過ぎて治療に用いることができない。そのため、一般的な化学療法剤や、最近ではアザシスチジン(5AZ)などの治療でその場をしのぐが、最終的にはコントロールができず、またとうてい根治は望みようがない。この点で、高齢化していく先進国でAMLや骨髄異形成症候群の治療法の確立は重要なテーマとなっている。この要請に応え、コロラド大学のグループは、今年7月The Lancet Oncologyに細胞死を防ぐ分子BCL2に異常を持つリンパ性白血病を抑える為に用いられるBcl2阻害剤(Venetoclax)と5AZを併用する治療法で、第1/2相とはいえ、平均75歳のAML患者さんに80%を越える寛解導入に成功したこと、そして多くの患者さんで長期に再発が抑えられることを報告した。

今日紹介する同じグループからの論文は同じ患者さんでこの治療方法のメカニズムをより掘り下げた論文で11月20日号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Venetoclax with azacitidine disrupts energy metabolism and targets leukemia stem cells in patients with acute myeloid leukemia (Veetocllaxアザシスチジン(AZ)の併用療法はエネルギー代謝を破壊し、白血病の幹細胞を標的にする)」だ。

Venetoclaxはジェネンテックにより開発されたBcl2阻害剤で、リンパ性白血病の治療薬としてすでにFDAに認可されている。また。5AZはわが国でもAMLや骨髄異形成症候群の治療に用いられている。従って、そのAMLへの転用はコロラド大学の治験は医師が主導しておこなったもので、迅速に導入可能な治療法だ。まだまだ症例数は少ないが、3年近く生存している患者さんが7割、病気の進行をやはり3年近く抑えられている患者さんがなんと5割近くも存在している。これは一般的な治療法と比べると、圧倒的な効果だ。さらに。PCRで残存する白血病を調べると、なんと4例で白血病細胞が完全に消えて、ある意味では完治する患者さんもいることがわかる。

なぜこれほど効果があるのか、昨日紹介したsingle cell profilingで調べると、正常幹細胞は障害を受けないのに、白血病の芽球細胞とともに、白血病の幹細胞も障害されていることが明らかになる(single cell profilingが臨床研究に役立つことがここでも明らかになった)。

白血病幹細胞(LSC)を取り出して治療による変化を調べると、ミトコンドリアで電子伝達系と共役してATP合成を行う酸化リン酸化システムが壊れていることが明らかになった。そしてTCAサイクルの中間体malate, fumarateが著しく低下し、逆にその前のsuccinateが上昇していることがわかった。そしてこの反応に関わるsuccinate dehydrogenase A(SDHA)のグルタチオン化が抑えられることが代謝異常の根本にあることを明らかにする。ただ、なぜこのグルタチオン化が両者の併用で抑えられるのかについては明確ではない。

いずれにせよ、このような効果はvenetoclaxと5AZを組み合わせたときだけに起こるようで、医師の医療経験から生まれた、標的もはっきりした治療法が開発できたのではないだろうか。さらに期待できるのは、根治の可能性がある点だ。もちろんまだ20%強の人でしか白血病細胞の完全除去は実現していないが、50%では最初の段階でともかく殆どの異常細胞を0に近づけることができている。その意味で、この治療法は期待できる。特に、すでにリンパ性白血病に利用されているvenetoclaxの費用は1ヶ月で28万円程度と、極めて安価だ。その意味で、是非早急に治験数を増やして、高齢者のAMLの上昇に備えルための重要な治療法だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ