12月21日 アミロイドβタンパク質は死体下垂体から調整した成長ホルモンを通して他人に感染る。(Natureオンライン版掲載論文)
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12月21日 アミロイドβタンパク質は死体下垂体から調整した成長ホルモンを通して他人に感染る。(Natureオンライン版掲載論文)

2018年12月21日
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私がヨーロッパに留学していた1980年代は、英国は狂牛病に汚染された地域とされており、帰国後もこの時期にヨーロッパで過ごしたという理由で、献血をするのは控えるように言われた。これはプリオンで汚染されたヨーロッパ産の肉や脳を食べた可能性がある限り、プリオンのキャリアになっているのではと疑うべしとされていたからだが、当時はその本態もわからず感染しているかどうかも検査することはできなかった。ただもっと深刻な問題は、その当時死体から取り出され、様々な医療に利用された材料で、硬膜や下垂体ホルモンの投与を受けた患者さんからクロイツフェルドヤコブ病(CJD)が発生し問題になった。例えば、死体の下垂体から調整した成長ホルモンの投与を受けた1883人の英国の子供達の中から80人のCJDが発生している。もちろん患者さんたちは複数のソースから得られた成長ホルモンを投与されているのだが、CJDを発症した全ての患者さんに投与されたホルモン製品も特定されており、しかも現在も残されて調べることができる。

今日紹介するロンドン大学プリオン病研究センターからの論文は、このCJDの原因となるプリオンに汚染されたホルモンの中に、アルツハイマー病の原因となるAβタンパク質も存在して、これが血管に沈着してアルツハイマー病ではなく、Aβアミロイド血管症(CAA)を発症させ、脳血管障害による認知症を引き起こす恐ろしい可能性を指摘した論文で昨日Natureにオンライン出版された。タイトルは「Transmission of amyloid-β protein pathology from cadaveric pituitary growth hormone (死体から調整された成長ホルモン投与でアミロイドβタンパク質による病変を移すことができる)」だ。

このグループは80人のCJDを発症した患者さんの中には、Aβの沈着による血管障害が存在することをすでに報告しており、今回はこの可能性を実験的に証明しようと行った研究になる。

まずCJDの発症原因となった成長ホルモンバイアルを調べると、アルツハイマー病の原因とされているAβ40やAβ42が、アルツハイマー病の患者さんの脳の半量程度存在している。実際には、このバイアルを投与してCAAが誘導できるか調べればいいのだが、貴重な資料なのでそう簡単に実験ができない。

そこでまず、予備実験としてヒトのアルツハイマー型Aβで病気を感染す条件を検討し、アルツハイマーモデルマウスの脳に、アルツハイマー病患者さんの脳抽出液を投与する実験系を用いることで、アルツハイマー病の脳抽出液を投与されたマウスだけに、Aβの沈着が血管や脳の実質の広い範囲に検出できることを見出している。そして、このようなマウスではアミロイドによる血管病変の頻度が上昇する。この病変は時間が経つごとに悪化していく。

この予備実験の後、最後にCDJの原因になった成長ホルモンバイアルを同じように投与する実験を行い、何十年も保存されてきた同じホルモンバイアルが、予想通りAβの沈着を誘導し、しかもCAAの原因になる可能性を強く示唆する病変を示すことも明らかにしている。

以上、まだプリオンやアルツハイマー病についての知識のなかった時代に作られ、残されていたたサンプルで、アルツハイマー型AβもCJDと同じようなプリオンとして増殖し、CAAを誘導するという事実を、公衆衛生学者の執念で証明したなかなか迫力のある研究だと思う。もちろん、CAAだけでなくアルツハイマー病自体も同じように誘導できる可能性は十分ある。とはいえ、このような不幸な医原事故のおかげで、死体からの医療材料を使う事はおそらくほとんど無くなっているので今は心配することはないだろう。ただ、医原病を引き起こす種は思わぬところに撒かれていることを思い知らされる論文だった。
カテゴリ:論文ウォッチ