2月13日 新しい遺伝子編集酵素CasX(Natureオンライン掲載論文)
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2月13日 新しい遺伝子編集酵素CasX(Natureオンライン掲載論文)

2019年2月13日
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1月25日このコラムでCRISPR/Cas9を遺伝子を切断して編集する目的で使う場合、目的の場所だけでなく、関係のない場所も切断されるため、ある意味で生命を傷つけるのと同じことで、受精卵をこのような危険に晒すことは犯罪だと述べた(http://aasj.jp/news/watch/9597)。しかしだからと言って、研究者は手をこまねいている訳ではない。目的の箇所だけに働くCasを求めて様々な努力を重ねている。

現在この課題の克服は2つの方向から行われている(勿論それぞれは排他的ではないため、両方が組み合わせられることもある)。一つの方向は、現在あるCasシステムの特異性を上げる方法で、この代表が今最も注目されている若手研究者David Leuだろう(http://aasj.jp/news/watch/8205)。これに対し、進化の結果生まれた多様性を信じ、自然に存在する細菌の中により使いやすいシステムがないかを探索するのがもう一つの方向で、これを追求しているのがCRISPR/Casシステムを発見した一人Doudnaさんだ。

 今日紹介する論文はこのDoudnaさんの研究室からの論文で地下水に生息するバクテリアから発見された全く新種のCasXについての研究でNatureにオンライン出版された。タイトルは「CasX enzymes comprise a distinct family of RNA-guided genome editors (CasX酵素はこれまで発見されたのとは全く別のRNAにガイドされたゲノム編集分子)」だ。

この研究では最初地下水のメタゲノム解析からその存在が予想されたCasXを持っているDeltaproteobacteriaとPlanctomycetesからCasX遺伝子を分離、それぞれの遺伝子編集活性を分子構造も含めて徹底的に解析している。

このCasXは20merのRNAと相補的配列を持つ2本鎖DNAを、PAM部位から12−14bp離れた場所でガイドRNAと結合しない方のDNA鎖を、さらにそこから10bp離れた場所でガイドRNAと結合している方のDNA鎖を切断する。この結果、10bpのオーバーハングをそれぞれ5‘端にもつ2本のDNA鎖が生成する。このシステムを用いて大腸菌や哺乳動物の細胞株のゲノムをノックアウトする実験を行うと、Cas9に近い効率でノックアウトが起こることが確認される。

そこで、ガイドRNA、標的DNA、CasXが結合した状態の3次元分子構造をクライオ電顕で解析し、CasXのガイドRNAの様々な部位との結合領域、DNA切断活性部位、RNAに結合している側のDNAと結合する部位、反対側と結合する部位などを特定している。

この結果、

  • ガイドRNAと結合することでCasXの構造が安定化し、ゲノム状の標的を探し始める。すなわちCasXだけではDNA切断活性がない。
  • CasXのRNAの結合していないDNAに結合する領域からDNAがほどき始められ、そこに切断活性を持つ領域がリクルートされ、切断が入る。
  • 次に、RNAと結合している側のDNAと結合する部位によりRNA-DNAの結合部位が折りたたまれて切断酵素領域に接触し、切断される。

という順番で、両方のDNA鎖が切断される。

このように、少し効率は落ちても、一定の順序に従う分子間の相互作用が起こって初めて、DNAの切断がそれぞれの鎖の別々の場所で起こることから、同じ場所で2本蜡を切断してしまうCas9と比べて標的特異性はかなり高いと想像される。もちろん、今後標的以外の場所が切断される可能性については徹底的に調べられると思うが、CasXはさらに安全性の高い遺伝子編集を可能にしてくれると期待が持てる。

しかしDoudnaさんの研究は応用問題だけでなく、このシステムの多様性など面白い話がいつも満載だ。

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