アルツハイマー病研究の基本は現在も、異常アミロイド(Aβ)とTauの制御だが、この上流、下流についての研究は多様性が増して、あらゆる可能性が試されるという新しいフェーズに入った感がある。
今日紹介するテキサス大学からの論文は、Aβとグレリン受容体との関係を追求した研究で8月14日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Disrupted hippocampal growth hormone secretagogue receptor 1a interaction with dopamine receptor D1 plays a role in Alzheimer′s disease (海馬でのsecretagogue受容体(GHSR1a)とドーパミンD1受容体(DRD1a)の相互作用の阻害がアルツハイマー病の発症に関わる)」だ。
タイトルにあるsecretagogue受容体は、国立循環器病センターの寒川さんらによって発見されたグレリンの受容体で、下垂体の成長ホルモンの分泌に関わるが、海馬ではドーパミン受容体と相互作用を起こして、シナプス活性を促進することが知られていた。この研究は、この GHSR1a と DRD1 の相互作用をAβが阻害して、アルツハイマー病の記憶障害が起こるのではと仮説をたて、これを検証している。
まず、アルツハイマー病(AD)モデルマウスを用い、ADでは海馬のGHSR1aの発現が上昇していること、そしてGHSR1aがAβと結合していることを発見する。そこでGHSR1aを培養細胞に発現させてAβとの結合を見ると、切断されたAβ42のみGHSR1aと結合できることを明らかにしている。
次に、同じ細胞を用いてAβによりGHSR1aとDRD1との相互作用が抑制されること、そしてADマウスでは時間とともに海馬での両者の結合が低下しており、この結果海馬のシナプス密度と機能が低下し、記憶障害が起こっている可能性を示している。
以上の結果は、AβによりGHSR1a/DRD1相互作用が拮抗的に抑制されていることを示しているので、これをそれぞれの受容体に対する刺激剤で高められるか、まず海馬のスライス培養で調べると、GHSR1a,DRD1それぞれの刺激剤では効果がみられないが、両方を同時に加えるとAβとGHSR1aの結合を抑制できることを確認する。
この結果を受けて、両方の刺激剤をアルツハイマーモデルマウスに投与すると、AβとGHSR1aの結合が低下、シナプスの密度が上昇し、記憶が正常化することを明らかにしている。この様に薬剤で機能的回復が誘導できるが、AβやTauの蓄積自体にはこの治療法はなんの効果もないことも示している。
以上、根本原因は除去できておらず、その結果としての神経変性については抑制できない可能性が大きいが、記憶の低下を防げるだけでも患者さんは助かる。相手が大きいと、一つでも対策が多い方がいいのは当然だ。