トランプ誕生あたりから、世界は何か騒がしい。ともかく様々なことが起こり、ニュースとして入ってくる。例えば、今日為替が乱高下しているが、これは米国の長期金利が短期金利の利回りを下回るという、逆転現象が起こったからだ。素人から見ると、要するに長期的未来はひどい様に思えるが、ただこの逆転をどう考えるかは分かれる様で、大きな経済後退のサインと見る人と、一時的現象と考える人がいる。要するに今起こっていることの未来への影響を予測するのは難しい。そのおかげでロクでもない評論家が存在できる。
今日紹介するマイクロソフト研究所からの論文はそんな評論家に代わり未来を予測するAIを作ろうとする研究で、Nature Human Behaviour オンライン版に掲載された。タイトルはズバリ「Predicting history (歴史を予測する)」だ。
しかしマイクロソフトの研究所は型破りの人たちが集まっている様だ。論文はヘーゲルの「ミネルバの梟は夕暮れに飛び立つ」というヘーゲル法哲学の引用から始める意気込みで、数理に弱い私たちをもぐっと惹きつける。
もちろん現在の情報をいくらAIにインプットしても、答えがわからないため学習させられない。そこで、1973年から1979年という時代を選び、この時に米国国務省からの電報を集め、この電報の内容とその後の歴史評価の対応付けを、歴史家に読んで評価してもらって計算したPCI(同時代的重要性認識)、国務省内での歴史的評価が定まった文書が集められたFRUS(合衆国外交関係)を比べている。PCIの値はある電報がFRUSに加えられる確率と相関することから、PCIはその時点での電報の重要性をある程度反映できるが、電報のサンプル数が増えると、あまり重要でない電報のスコアも上がっていき、電報の付随データのみから将来の歴史的重要性を予測するのは難しいことが明らかになった。
そこでその時代を切り取り将来を予測する能力の優れた年代記編集者の条件とは何かを考え、その条件を満たせる様なアルゴリズムの機械学習を設計して、コンピュータが重要と判断した電報が実際にFRUS に収載される確率を調べると 、サンプル数が多くてもある程度予測が可能になったとはいえ、予測できるとは到底いえないことが明らかになった。
結局ネガティブデータで終わっており、数理の苦手な私には問題の原因を予測することは難しいが、結局この失敗は、正確に予測できる評論家がいないのと同じことだという感触はある。もちろん始まったばかりで、個人的には優れたAI評論家が生まれることは可能ではないかと期待している。