9月11日 白斑症組織での複雑な細胞動態をsingle cell RNA sequencingで解析する(9月8日 Science Translational Medicine 掲載論文)
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9月11日 白斑症組織での複雑な細胞動態をsingle cell RNA sequencingで解析する(9月8日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年9月11日
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現役時代、当時大学院生だった西村栄美(現東大医科研教授)さんは、色素細胞の分化段階に応じてカドヘリンの発現が環境依存的に変化し、これによって神経堤から皮下組織に分布した後、上皮細胞層に移動し、最後に毛根のバルジ領域へ定着できるという論文を発表したが、そのとき色素細胞維持の複雑性に本当に感心した。

この色素細胞を上皮層に維持する過程が傷害され、上皮層の色素細胞が脱落する白斑症は、自己免疫性炎症疾患であることはわかっているが、なぜ局所的に白斑が起こり、他の場所では色素が維持されるのかなどわからない点が多い。

今日紹介するマサチューセッツ医科大学からの論文は、この難問に患者さんの皮膚から採取した細胞のsingle cell RNA sequencing(scRNA-seq)でアプローチした研究で9月8日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「scRNA-seq of human vitiligo reveals complex networks of subclinical immune activation and a role for CCR5 in T reg function(人の白斑症のscRNA-seqによる解析は、臨床的症状が出る前に成立した複雑な免疫活性ネットワークと抑制性T細胞(Treg)のCCR5の機能を明らかにした)」だ。

皮膚は安全に細胞の採取ができる組織で、single cellレベルでRNA発現を調べるscRNA-seqを病態解析に利用しやすく、この技術で薬剤過敏性症候群の治療法が明らかにした論文は(https://aasj.jp/news/watch/12272)、以前紹介した。

この論文では、健常人、患者さんの正常皮膚、患者さんの白斑部位の3カ所から細胞を採取し、これをscRNA-seqで解析して、色素細胞が白斑部位でなぜ脱落しているのかを解析している。ただ、一般的な皮膚組織のバイオプシーの代わりに、suction blister biopsyと呼ばれる、皮下に液を注入し、そこに遊離してくる細胞を吸い出すという方法で細胞を採取している。おそらく、ケラチノサイトや色素細胞の収量は落ちるが、single cell suspension 回収という点ではいいのかもしれない。実際この方法では皮下組織の細胞はほとんど混入してこないようだ。

このように主に上皮内の細胞に限るという条件でscRNA-seqが行われ、膨大なデータから、以下のことが明らかになった。

  • これまで白斑の重要な原因であると考えられていたインターフェロンγ(IFNγ)は、ケラチン細胞で最も合成が多いが、これは健常皮膚と白斑では差がない。
  • 一方、T細胞では、Tregを含めた全てのサブセットでIFNγが上昇している。この上昇は白斑を問わず患者さんの皮膚全体で見られるが、白斑部位では特に上昇が激しい。すなわち、T細胞の活性化という点では、すでに病気は始まっているが、何らかの要因で白斑部位でさらにIFNγが上昇する。
  • 白斑部位の各細胞の遺伝子発現から、様々な細胞同士で相互作用が進んでいることがわかる。色素細胞について注目すると、ケラチン細胞が作るマトリックスにより接着する仕組み、およびTGFβとその受容体によるシグナルの変化などを捉えることができる。以上のことから、炎症によりケラチン細胞との関係が変化して色素細胞が脱落することが強く示唆される。
  • 一方、直接T細胞やNK細胞により色素細胞が傷害される可能性も高く、特に白斑局所ではMHCの発現が高まっている。
  • Tregは白斑を抑える働きがあることが知られているが、白斑部位ではIFNγを発現し、炎症により遺伝子発現プログラムが変化している。特にCD8T細胞と相互作用する時に使われるCCR5ケモカイン受容体の発現が高まっている。
  • マウスの実験でCCR5は、TregがCD8T細胞機能を抑制するのに必須であることがわかっている。従って、CCR5が白斑局所のTregで上昇しているのは、このシグナルが何らかの契機で伝えられにくくなっているのか、あるいはこのシグナルが細胞遊走ではなく、Tregが炎症を悪化させるシグナルとして働いている可能性を示唆する。

以上が主な結果で、少し私自身の勝手な解釈を加えているが、病気が全身病であること、ただ白斑局所ではさらに強い炎症が起こっていること、そして何よりもそこで起こる細胞間相互作用は超複雑だが、それだけ新しい治療標的が見つかる可能性が大きいことがよくわかった。

カテゴリ:論文ウォッチ