9月30日 αシヌクレイン症で見られるマイクログリアの共同作戦(9月30日号 Cell 掲載論文)
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9月30日 αシヌクレイン症で見られるマイクログリアの共同作戦(9月30日号 Cell 掲載論文)

2021年9月30日
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一度はご覧になったことがあるのではと思うが、清水茜さんによる漫画で、体内で働いている細胞を擬人化して描いた「はたらく細胞」シリーズがある。ビデオにもなっていて、例えばウイルス免疫に関して言うと、自然免疫から獲得免疫、抗体とT細胞など、考証がしっかりとできており、漫画であってもこのようなシリーズが700万部を超えて売れる我が国の一般の人たちの知識欲を感じる。

ただ、生物学者としては、細胞の機能や目的を擬人化することで際立たせるという手法には常に問題を感じる。というのも、アリストテレスが生物の原理として目的因を導入して以来、目的という非科学的因果性をいかに科学的因果性に転換するかが生物学の課題だったからだ。その後、ダーウィンによるアルゴリズムの導入、シャノンをはじめとする20世紀の情報科学の進展の結果進んだ、生物情報の研究のおかげで、生物学は徐々に目的論から解放されつつある。

などとえらそうに言ったものの、生物現象はまだまだ目的を考えることでよりよく理解できることが多い。だからはたらく細胞がヒットするのだが、研究者でも同じことが言える。今日紹介するドイツ・ボン大学からの論文はまさに目的論の極致とも言える、ミクログリアが強調し合うことで炎症を抑えてシヌクレインを処理するという、よくできた話についての研究で9月30日号のCellに掲載された。タイトルは「Microglia jointly degrade fibrillar alpha-synuclein cargo by distribution through tunneling nanotubes(ミクログリアは繊維状αシヌクレインを細胞質のナノチューブを通して運んで、協力して分解している)」だ。

パーキンソン病やレビー小体認知症で蓄積が見られるαシヌクレインについては何度も紹介してきたが、これらの病気で神経細胞死がおこる引き金を引く過程だと考えられている。恐ろしいことに、このシヌクレインは細胞から細胞へとプリオンのように受け渡されると考えられており、例えば盲腸や迷走神経の手術するとパーキンソン病の発症が抑えられるという話も、シヌクレインが神経間を伝搬することを示唆している(https://aasj.jp/news/watch/9180)。

αシヌクレインの集まったレビー小体は神経細胞内で形成され、決してグリア内に見られることはないが、細胞外に排出されたシヌクレインの多くが、ミクログリアで分解されるからだ。この研究では、ミクログリア培養でシヌクレインの処理能力を調べると、確かに15分でシヌクレインが貪食されるが、その結果ミクログリアはストレスを抱えて、炎症性の活性化型へと転換し、さらに細胞死の引き金も引かれることが明らかになった。すなわち、シヌクレインはかなり強い刺激で、貪食にも自ずと限界があることがわかった。

もしこの状態が続いて、炎症が広がると大変なことになる。そこで、これを抑えるメカニズムがあるのではと着想し、培養を詳しく眺めてみると、シヌクレインの凝集塊が、小さいものは細長い細胞間のブリッジ、大きいものは太く短いブリッジを通って、貪食していないミクログリアに受け渡されることが明らかになった。これはシヌクレイン特異的な現象で、アミロイドやTauでは見られない。

この過程はシヌクレインを取り込んだストレスによる活性酸素の発生により誘導される、アクチンの再構成をともなう能動的プロセスで、ROCKを阻害することで抑えることができる。すなわち、自分で抱えきれなくなったシヌクレインを他のミクログリアに細胞ブリッジを通して受け渡すことで、自分のストレスを減らし、炎症誘導を減らし、シヌクレインを処理していることになる。

さらに驚くのは、同じブリッジを通って、今度は受け手の細胞からミトコンドリアが移行し、活性酸素の処理を助けて、シヌクレインを食べ過ぎた細胞のストレスを防いでいる。

最後に、マウスの脳内にシヌクレインを注射し、試験管内の過程が同じように見られること、さらにはレビー小体認知症の死後脳でシヌクレインを貪食したミクログリアが細胞間ブリッジのネットワークを作っていることを確認している。

以上、はたらく細胞のように、かなり目的論的に結果を説明したので、いつもよりはわかりやすかったと思う。ただ、生物学者としてはこの現象の進化的背景などを理解できないと、ちょっとできすぎと違う?と考えながら終わらざるを得ない。

カテゴリ:論文ウォッチ