11月6日 クリスパー開発者のDoudnaさんのユニークなCovid-19研究(11月4日 Science オンライン掲載論文)
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11月6日 クリスパー開発者のDoudnaさんのユニークなCovid-19研究(11月4日 Science オンライン掲載論文)

2021年11月6日
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Covid-19についての論文に目を通していても、最近では新鮮な驚きが減って、この分野もアカデミックになってきたなと感じるが、それでもこれまでの常識を疑う素晴らしい研究に出会うことができる。逆に言うと、30Kbと小さなウイルスでも、尽きることがない不思議があり、研究が飽和しているように見えてきたときこそ、新しい発想が必要であることを示唆している。

今日紹介する、昨年クリスパーの開発でノーベル化学賞を受賞したカリフォルニア大学サンフランシスコ校Doudnaさんの研究室、およびカリフォルニア大学バークレー校からの共同研究論文は、新しい発想の研究の重要性を示す典型で、11月4日Scienceにオンライン掲載された。タイトルは「Rapid assessment of SARS-CoV-2 evolved variants using virus-like particles(新型コロナウイルスのウイルス様粒子を用いた変異体の迅速な検定)」だ。

紹介はしなかったが、クリスパーの本家本元として、Doudnaさんは一本鎖DNAを切断するCasシステムを用いて、増幅なしのCovid-19ウイルス検出法を開発して発表している。しかし、今回の論文は、全く違う分野の話で、技術的には特に新しいとはいえない、いわば地道な研究だ。

現在ウイルス感染実験はウイルス自体か、偽ウイルスと呼ばれる他のウイルスシステムを用いた感染実験に頼っており、抗体も全てこの方法でテストされている。一方、Doudnaさんたちは、完全にウイルスゲノムを排除したウイルス粒子だけで、感染実験を可能にする条件解明にチャレンジした。

もちろん感染を定量化する必要があるので、感染量を反映できるルシフェラーゼRNAをウイルス粒子の中に取り込んで、蛍光量で感染を検知しようとしている。言ってみれば、コロナウイルスの粒子をRNAの運び屋として利用する条件設定の研究と言える。

この目的のためには、スパイク、マトリックス、エンベロープと粒子外に存在する分子と、RNAとともに粒子内にパッケージされる核(N)タンパク質が至適な割合で作られ、レポーター遺伝子を含んだウイルス粒子を排出するパッケージ細胞を作成する必要がある。

さらに、レポーターRNAがNタンパク質とともに粒子内にパッケージされるように、コロナウイルスが持っているシグナルRNAを突き止め、Nタンパク質と結合するガイドRNA、感染を定量化するためにレポーターRNA、そしてパッケージのためのシグナルRNAを設計する必要がある。これらの条件を設定するのはおそらく簡単ではない。何度も試行錯誤を繰り返して、最終的に全てを至適化し、レポーター遺伝子の発現でウイルス感染を定量できるシステムを作り上げた、まさに地道な研究だ。

見方を変えると、アデノ随伴ウイルスベクターのようなコロナウイルス粒子遺伝子ベクター系が完成したことになる。

この研究ではこの新しいウイルス粒子+レポーター遺伝子感染実験系を用いて、スパイク変異の影響、スパイクに対する抗体の中和活性、そしてNタンパク質の変異の感染への影響を調べている。

まず驚くのは、この実験系では、α株、β株、δ株特有のスパイク変異が感染の効率に反映しないことだ。もちろんこれまでの研究を否定するものではないが、感染性を全てスパイクの問題にしていたことから考えると、今後は注意が必要だ。一方、スパイク変異の抗体への感受性は良く反映されている。抗体の中和活性を簡単に調べる素晴らしい方法だと思う。

さらに驚くのは、スパイク変異と異なり、粒子内にとどまるNタンパク質の変異は、パッケージ過程の効率上昇を介して感染性を高める効果が大きく、δ株の持つ変異によりなんと10倍以上の感染効率上昇が観察される。この結果を確かめるため、Nタンパク質の変異のみが異なるウイルスを作成して実際の感染実験を行い、感染で50倍の差が見られることを確認している。

以上が結果だが、この研究の重要性を私なりに考えると次のようにまとめられる。

  1. Doudnaさんが述べているように、構造タンパク質の変異も含めてウイルスの感染性を迅速に調べることができるシステムが完成した。
  2. このウイルス粒子は凍結融解で安定なため、ウイルス実験が難しい企業などに提供できる、簡単安全な感染実験を可能にした。
  3. 大きなRNAを運ぶウイルスベクターへの道を開いた。現在のlipid nanoparticleは簡単だが、コストが高い。このパッケージャーを用いて、アデノウイルスワクチン並みのコストで、コロナウイルス感染標的細胞(例えば気道上皮)を狙ったワクチンも可能になるかもしれない。

以上、さすがDoudnaさんと思える、ユニークな研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ