11月29日 αシヌクレインによる神経変性のメカニズム:シヌクレインとリソゾームがつながった(11月17日 Neuron オンライン掲載論文)
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11月29日 αシヌクレインによる神経変性のメカニズム:シヌクレインとリソゾームがつながった(11月17日 Neuron オンライン掲載論文)

2021年11月29日
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パーキンソン病(PD)は何らかの原因で黒質ドーパミン神経が細胞死に陥ることで発症する、と書いてしまえば簡単だが、様々な分子が関わる複雑な過程で、すでに多様な遺伝的リスクが特定されつつある。ただ、病気発症の引き金になる何らかの原因として最も注目されているのが、αシヌクレインだ。この分子の合成が上昇する重複変異がPDの遺伝的原因になると言うだけでなく、変異がないケースでもαシヌクレインの蓄積が関わっているのではと考えられている。さらにαシヌクレインが異常沈殿して形成されるのがレビー小体であることがわかり、αシヌクレイン異常蓄積という目で、神経変性疾患を見ることで、PD、レビー小体認知症(LBD)、多系統萎縮症などを統一的に考えることが可能になってきた。

今日紹介するシカゴ・ノースウェスタン大学からの論文はαシヌクレイン(αSNL)遺伝子重複のあるPD患者さんのiPSから誘導したドーパミンニューロンを作成し、αシヌクレイン量が増えることで発生する異常を細胞レベルで解析した研究で11月17日Neuronにオンライン出版された。タイトルは「Rescue of a-synuclein aggregation in Parkinson’s patient neurons by synergistic enhancement of ER proteostasis and protein trafficking (小胞体のタンパク質恒常性維持とタンパク質輸送を高めることで、パーキンソン病でのシヌクレイン凝集を抑えることができる)」だ。

私のような素人でも、αSNLが増えれば小胞体(ER)ストレスが誘導されると連想はできるが、それ以降の話は極めて複雑に調節されているER輸送の話なので、しっかり学ぶことはほとんどなかった。その意味で、専門用語が多いとは言え、この論文は頭の整理には最適だ。ただ、実験の詳細は一般の人にはわかりにくいと思うので、結論のみを箇条書きにして紹介する。

  1. 遺伝的PDの一つにリソゾーム蓄積病の原因遺伝子でβglucocerebrosidase(GCase)をコードするGBA1遺伝子変異が特定されているが、αSNLを過剰発現する患者さん由来ドーパミン神経のERでGCaseが蓄積し、活性が低下している。すなわち、αSNLとGBA1遺伝子がつながった。
  2. αSNLの過剰産生によりCANXやGRP94などのシャペロンと結合すると、GCaseはシャペロンが利用できなくなり、タンパク質の成熟がストップし、その結果GCaseの蓄積と機能低下が起こる。このため、GCzaseがリソゾームで働かず、リソゾーム病と同じ状態が生じる。
  3. 通常ERでタンパク質のうっ滞が生じると、これを感知するUPRシステムが働き、ER輸送が高まる。実際、GBA1変異によるGCaseの蓄積では、これが見られる。しかし、αSNLの蓄積がトリガーになる場合、なぜかUPRシステムが働かず、緊急の処理機能が動員されず、ERが分解する。
  4. 以上のことから、αSNL増加が引き金になるとき、利用できるシャペロンの低下によるERでのタンパク質蓄積、その結果のERストレスが発生だけでなく、ストレスを感知するUPR系が鈍って、処理機能を動員できなくなる2重の問題が発生する。
  5. シャペロン機能を高める薬剤と、GCaseのER輸送を高める薬剤を合わせると、神経内でのGCase蓄積を強く抑えることができる。

なぜαSNL蓄積がUPR感知を抑えるのかは明確ではないが、GPA1変異でわかっていたリソゾーム異常とαSNLが私の頭の中でもようやくつながった。

カテゴリ:論文ウォッチ