11月4日 脊髄損傷後の再生を促進する薬剤の探索(10月29日 Nature オンライン掲載論文)
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11月4日 脊髄損傷後の再生を促進する薬剤の探索(10月29日 Nature オンライン掲載論文)

2025年11月4日
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ミレニアムプロジェクトとして再生医学プロジェクトが始まってから既に四半世紀が経過したが、細胞移植を含め未だに決め手となる治療は完成していない。実際、神経の中でも最も軸索の長い神経をもう一度正しい場所に投射させることは再生の中でも最も難しい課題と言えるだろう。しかし、両生類のように脊髄再生が可能な動物も存在することから決して不可能ではない。この困難な課題を目指して、様々な研究が行われている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、脊髄損傷で神経細胞移植を行ったとき、移植した細胞やホストの神経の活性を高める薬剤の探索研究で10月29日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Thiorphan reprograms neurons to promote functional recovery after spinal cord injury(チオルファンは神経細胞をリプログラムして脊髄損傷後の機能回復を促進する)」だ。

研究の目的は脊髄再生を促す薬剤の探索で、これまでも様々な試みがなされてきた。この研究では、薬剤の細胞への効果を転写レベルで調べたデータベースから、損傷時の再生神経で起こる転写変化に近いプログラムを誘導する薬剤を探索している。その結果、4種類の薬剤をリストしているが、この中の quinostatin だけは手に入らないという理由で諦め、残りの3種類を神経細胞培養に転嫁し、効果を調べている。その結果、神経細胞から多くて長い神経突起を誘導できる化合物としてチオルファンを特定している。

次は脊髄損傷を誘発したラットに、神経幹細胞を移植し、そのときにチオルファンを全身投与、その後脳内にポンプでチオルファンを投与し続けて、運動神経の軸索伸張を促進する治療を行っている。

結果だが、チオルファン単独では神経幹細胞移植と比べても劣るが、神経幹細胞移植とチオルファンを組み合わせたグループは初期から前肢の運動機能に大きな改善を得ることができている。組織学的には、皮質からの神経の移植神経細胞塊への投射が促進しており、移植した神経細胞を介するリレー回路が形成されていると想像される。

後は将来の人間への応用を考え、ヒトの正常皮質神経培養を行い、これにチオルファンを加えると、神経突起数形成及び伸張距離が増大し、さらにBDNFシグナルを刺激できることを明らかにしている。

以上が結果で、今後大型の動物を用いた研究を行った上で、うまくいけば人間の脊髄損傷への応用へと進むことができるだろう。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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