2月17日 ゾウの鼻ヒゲの解剖学を突き詰める(2月12日 Science 掲載論文)
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2月17日 ゾウの鼻ヒゲの解剖学を突き詰める(2月12日 Science 掲載論文)

2026年2月17日
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毎日目を通す論文のほとんどは、名の知れた雑誌が中心で、専門誌に目を配ることはコンサルテーションで必要なとき以外ほとんどない。論文紹介のために専門誌を読むのは、紹介する論文を選んだ後、その仕事の背景を調べるときに限られる。このように名の知れた雑誌しか目を通していないにもかかわらず、よく論文が採択されたなと思える変わった論文に出会うことがある。すなわち、ほとんどの人が選ぶとは思えない課題に、真面目に徹底的に取り組んでいる研究で、その真面目さが微笑ましい。

今日紹介するドイツ シュトゥットガルトのマックスプランク情報システム研究所からの論文もそんな一例で、象の鼻ヒゲを、感覚毛であるという仮説の下に、ただ真面目に調べた研究だが、なんと2月12日 Science に掲載された。タイトルは「Functional gradients facilitate tactile sensing in elephant whiskers(ゾウの鼻ヒゲに見られる機能的購買が触覚を高める)」だ。

触覚というタイトルを見て、当然、神経科学の研究かと思ってしまう。実際マウスでは、一本一本のヒゲ由来に対応する、解剖学的に特有な神経配置をとるバレル構造が存在し、生後にヒゲを抜いたりするとばれる構造は消失する。ゾウではどんなバレル構造が見られるのかと読み進むと、この研究では全く神経や毛根の話は出てこず、もっぱらゾウの鼻に分布するヒゲの構造解析に終始している。しかし面白い。

まず鼻ヒゲと言ってもゾウの鼻は長く、定義は難しい。鼻に生えている毛と定義すると、ゾウには1000本の鼻ヒゲがあるらしい。

構造の最大の特徴は、毛が平べったいことで、このおかげで曲がる方向が薄い側に決められる。この構造は生まれてすぐには存在せず、成長とともにわざわざ平べったくなることから、ゾウを特徴付ける重要な構造と考えられる。毛根で作られたばかりの根の部分は他の動物と同じで丸いが、中程になるほど平べったくなる。また、同じ鼻でも物をつかんだりする鼻先ほど平べったい構造がはっきりしていることから、感覚を支える重要な特徴としている。しかし、平べったい毛を形成するメカニズムを知りたいものだ。

次は構造で、他の動物では毛の中心に孔が通っているのが見られるが、ゾウの場合中心の孔はない代わりに、毛全体に数多くの小さな穴が分布している。また、外側にうろこ状の構造がないのも特徴になる。この構造は毛というより、角やひずめに似た構造で、物理学的特性をシミュレーションすると、固有振動数が上昇した結果、外部の振動に強く共振できることが想像される。

このように成分や構造からゾウの鼻ヒゲは基部が固く先に行くほど柔らかい構造を持っているが、ヒゲの感度が高いとされる猫も同じような構造を持つらしい。その結果、フレキシビリティーが増大し、壊れにくが感受性の高い感覚毛が出来ている。さらに、感覚のダイナミックレンジも広い。

以上が結果で、構造の解析と、様々な物理学的テスト、そしてシミュレーションから、鼻先で食べ物をつかんで口に入れるという複雑な行動がゾウで可能になっている秘密のほとんどは、この鼻ヒゲの構造にあると結論している。とは言え、生理学的には少し言い過ぎの気がする。解剖額や発生学的には、元々丸く固かった毛がと中で大きく変化するメカニズムが知りたい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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