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9月5日 幻覚剤シロシビンはガンの化学療法で発生する末梢神経障害を抑制する(9月3日 Science 掲載論文)

2026年9月5日
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大きなガンで浸潤が見られる場合は、遠隔転移が認められなくても、基本的には起こっているとして治療する。そのための治療がアジュバント治療で、局所に対しては放射線、全身に対しては化学療法が行われる。私の場合は年齢のこともあり一般の化学療法は受けないと決めているが、多くのガンで用いられるのがシスプラチンなどの白金を含む化合物で、副作用は強い。その中の一つが感覚神経の異常で、ちょっと風に当たると痛みが来ると行った過敏症から、触覚や聴覚が失われる障害が長期に続く末梢神経障害で、治療後も長く続く。

今日紹介するテキサス大学MDアンダーソンガン研究所からの論文は、このやっかいな感覚神経障害が、最近うつ病に使われるようになった幻覚剤シロシビンを治療前に投与することで、長期に末梢神経の副作用を抑えるという、本当なら化学療法をこれから受ける患者さんにとっても重要な研究で、9月3日 Science に掲載された。タイトルは「Psilocybin prevents chemotherapy-induced peripheral neuropathy through mitochondrial trafficking preservation(シロシビンは化学療法によって起こる末梢神経障害をミトコンドリアの移送を維持することで守る)」だ。

論文からは何故このアイデアが出てきたのかはっきりはしないのだが、痛覚受容体を発現する末梢神経がセロトニン受容体を発現していること、シロシビンがセロトニン受容体 (5−HTA2) を介して作用することなどから、このアイデアが出てきたのではないだろうか。論文では最初からシスプラチンをマウスに投与する系、あるいは腫瘍を移植して、手術前、手術後にシスプラチンを投与する、人間の治療と同じプロトコルで末梢神経障害を誘導出来ること、そしてシロシビンを化学療法前に2回投与することで、長期間副作用の発生を抑えることができることを明らかにしている。結論としては、シロシビンは神経症状のみに作用して末梢神経障害を抑え、ガン治療には影響がない。患者さんにとってはこれで十分で、テキサス大学のサイトでも第2相の治験が始まっているようだ。

まず早く現れる末梢神経過敏症に対する効果を調べると、末梢神経細胞自体の興奮には全く影響を及ぼしていないが、シスプラチンによって誘導される大脳皮質の活動の低下をシロシビンはセロトニン受容体を介して抑制する。これが過敏症を抑える明確なメカニズムは示されていないが、過敏症についてはシロシビンは中枢の回路を変化させて痛みの認識を鈍化させるようだ。

一方、感覚神経の喪失についてはメカニズムが解析されている。シスプラチン投与後感覚神経が失われるのは、上皮への感覚神経細胞末端が失われる結果だが、これをシロシビンは抑えることができる。この作用はセロトニン受容体を介しているので、これを発現している末梢神経のみが守られるわけだが、機能的テストではかなり末梢感覚を守ることが出来ている。

細胞学的に探索すると、神経末端でのエネルギー産生がシスプラチンによって抑えられ、端末が維持できない。そして、この異常がミトコンドリアの端末への移送が滞ることで起こることがわかった。一方、シロシビンを前もって投与しておくと、ミトコンドリアの移送が維持され、神経末端でのエネルギー産生が維持されることで、神経障害を抑えている。

最後に、このミトコンドリアの移送は、シロシビンのセロトニン受容体を介するシグナルにより活性化される神経増殖因子受容体TrkB活性化によりミトコンドリア移送に関わる微小管形成を維持するシグナルが活性化された結果である事を示している。

同じような現象を試験管内ではあるが人間の神経でも認められることも示しており、シロシビンが既に臨床で使われていることを考えると、すぐに治験に進むのも肯ける。おそらくシスプラチンだけでなく、末梢神経障害を起こす他の抗ガン剤にも効果があるかも知れない。期待したい。

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