10月3日 異なる折りたたみ構造のヒトTau (Tau strain) は、マウス脳で同じTau strainを複製する鋳型として働き、この構造が病態を決めていることの明確な証明(9月30日 Nature オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2026年 > 10月 > 3日

10月3日 異なる折りたたみ構造のヒトTau (Tau strain) は、マウス脳で同じTau strainを複製する鋳型として働き、この構造が病態を決めていることの明確な証明(9月30日 Nature オンライン掲載論文)

2026年10月3日
SNSシェア

アルツハイマー病(AD)ではTau、パーキンソン病(PD)ではαシヌクレイン、ALSではTD-43などの分子が異常に折りたたまれて凝集することで神経変性が起こることがわかっているが、分子が凝集するメカニズムの最も重要なポイントは、この異常折りたたみ構造が鋳型になって正常の分子を異常な構造へと転換し、異常が増幅することだ。このブログで何度も紹介したように、異常タンパク質が鋳型になって構造を増幅させる現象は、まさに狂牛病のようなプリオン病と言っていい。まだ人から人への感染は報告されていないものの、神経変性疾患をプリオン病の枠内で捉える研究者は増えている。

とは言え知り合いの厳密な神経科学者に本当かと聞くと、ADでTau strainが鋳型として同じTau strainを増幅し、Tau strainの型によって病気の形が異なることを明確に示した研究はまだ見たことはないという返事だった。

今日紹介する英国MRCと我が国の東京都臨床研が共同で発表した論文は、ADと同じくTauによる基底核症候群 (CBD) からTau strainを取り出しマウスに注射すると、同じ構造のTau strainがマウスTauから形成され、AD、CBDそれぞれの病態を再現できることを初めて示した重要な研究で、9月30日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Prion-like transmission of human tau strains in the mouse brain(ヒトのTau-strainはマウス脳でプリオン様の伝搬を起こす)」だ。

「Tauもプリオンのように伝搬するのか」とそのままタイトルを読んでしまうと、何を今更ということになるかもしれない。ただ、Tau strainの原子構造まで確認して同じ構造がプリオンの様に複製されることを示したのがこの研究の最大のハイライトだ。簡単そうな実験に見えるが、実際には鋳型として働く分子を調整するところから、かなり職人芸が必要で、これが保証されていないとだれも信用しない。共同責任著者になっている都立臨床研の長谷川政人さんのグループは、だれもが信用する研究室のようで、2021年ALSを誘導するTDP-43分子についての研究を紹介したときも長谷川さんのことを紹介した(https://aasj.jp/news/watch/18545)。

おそらく長谷川さんの手によって調整されたADとCBD由来Tau strainをマウスの脳に注射してその後の経過を1年近く追跡し、神経変性とそれを引き起こしたTau strainを解析している。少し専門的になるが、ヒトのTauは異なる長さの6種類のアイソフォームがあり、微小管結合部位を4コ持つフォーム (4R) と、3コ持つフォーム (3R) に分かれる。CBDは4Rによって起こるが、ADは3R+4Rが混ざったTauがないと発生しない。ところがマウスでは4Rしか存在しないので、そもそもADを伝搬できるはずはないという議論があった。

ところがADとCBD患者さんから調整したTau strainをマウスに注射すると、9ヶ月後にマウスTauの凝集体が発生する。重要なのはADとCBDそれぞれのTau strainは異なる脳領域へと拡大することで、CBDのTau strainはより脳幹へと伝搬するのがわかる。即ち伝搬の鋳型になるTau strainの違いが、様々なTau異常症の病態を形成する原因になることがわかる。

さらに、ADのTau strainは神経細胞だけにしか伝搬しないが、CBDのTau strainは神経細胞とグリア細胞にも伝搬し凝集体を造る。ヒトとマウスのTauを区別する抗体で調べると、注射したヒトTau strainは速やかに除去され、9ヶ月後で凝集しているのは全てマウス由来Tauである事も確認されている。即ちヒトの鋳型でマウスの異常構造が形成され、それが増幅する。

さてここからがこの研究のハイライトになるが、3Rと4Rが混ざったTauがあるときだけ形成されるAD型Tau strainを染める抗体で調べると、4RしかないマウスTau由来なのに、ADのTau strainで誘導すると抗体で染まる構造が形成される。一方、CBD由来Tau strainで誘導すると、出来たTau構造は全く染まらない。結構ややこしい結果で頭がこんがらがると思うが、結論としてはADとCBDを決めているのは3R、4Rと言ったイソフォームではなく、4Rで起こっている折りたたみ構造の違いで、AD型構造では2番目のリピートが外に出ていて抗体に反応するが、CBD型構造では抗体認識部位が隠されると考えている。

そして、注射に使ったAD及びCBDのTauの折りたたみ構造と、それを鋳型にマウスTauで形成されたマウスの構造をクライオ電顕で比較し、Tau折りたたみ構造は最初注射したヒトの構造と、それを鋳型に形成されたマウスの構造が完全に一致することを明らかにしている。

以上が結果で、3R, 4Rの謎など、これまで理解できていなかった私の頭は完璧に整理できた。しかし、完全に証明することが如何に難しく、しかも実験が研究者のもつ名人芸に依存していることを改めて認識させる研究だった。

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年10月
月火水木金土日
« 9月  
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031