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10月11日 患者さんについて書かれた記述を時系列に沿って他のデータと統合する AI Agent(9月10日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2026年10月11日
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急速に発展した様々な診断技術が支えられるようになっても、患者さんについて医師自体が調べる症状と兆候についての記述は重要だ。これは電子カルテ (EHR) の重要な情報として書き込まれるのだが、患者さんの病歴の中に構造化して組みこむ(例えば吐き気がしたと言う症状が、電解質の変化と紐付けられた Knowledge graph として構造化する)ことは簡単でない。

今日紹介する Respond Health という米国の組織を中心とする研究グループからの論文は、医師が EHR に書き込んだ記述データから重要な項目を抽出して、これを他のデータと統合し、患者さんの経過をコンピュータ処理可能な Knowledge Graph にまとめる作業を自動で行える AI Agent の設計についての論文で、9月10日 Nature Medicine に掲載された。タイトルは「Computable longitudinal patient journeys from structured and unstructured EHR data(電子カルテ内の構造化されたデータと構造化されていないデータを、コンピュータ処理可能な患者さんの経過データに変える)」だ。

この論文はオープンソースで、掲載データには自由にアクセスできるので、是非オリジナルな論文も見ながら読んで欲しい(https://www.nature.com/articles/s41591-026-04695-x)。またこの論文が目指したことが一枚の図で表現されているので、まずこの図を読者の皆さんにも開いて貰って説明する(https://www.nature.com/articles/s41591-026-04695-x/figures/4)。

この図にある様に EHR には検査データや画像など構造化されコンピュータ処理しやすいデータと、医師の記述という構造化されていない(もちろん記述を構造化するカルテの書き方はこれまでも行われていたが)データが含まれている。この構造化されていない記述部分をGPT等の言語モデルを使って重要な項目に分けて、最終的に他のデータとともにコンピュータ処理可能な Knowledge Graph を作成する方法について述べたのがこの論文だ。

具体的には主に Open AI の LLM を用いて、医師の文章を項目別の抽出するが、この時項目は指定して別々に行わせている。即ち、症状、兆候、服用薬、等など図にあるように細かく指示して、それぞれについて抽出させている。例えば皆さんが新しい論文を Chat に解説させるとき、「論文を説明して」と丸投げするのではなく「症状についてはどう書いてある」と項目ごとに聞く感じになる。

次にこれらの項目データを著者らが atomic statement と呼ぶコンピュータ処理しやすい命題に分けている。例えば「吐き気・有り」「GLP-1薬・一時中止」で、実際には「かんじゃさんが強い吐き気を訴えたので GLP-1 を一時中止した」という文章が2つの命題として処理される。もちろん患者さんの受診という時間情報とは完全に紐付けられて、

ただ、本当に大丈夫なのかについては専門家が出てきた命題を精査して、EHR と対応させ信頼性を徹底的に検証している。

実際には、LLM にインプットするプロンプトの設計が重要で、初診時、経過観察時等、様々なプロンプトは自動ではなく人間が作っており、それを Agent AI が使って自動的に EHR から Knowledge Graph を抽出する様に出来ている。

これらの作業を一人の患者さんが30回受診したケースで Agent AI に作業を行わせると、300-400回 LLM にインプットを繰り返すことになり、計算コストが大変なので、最終的には個人で使える GPT-4.1 Mini/nano の高速廉価モデルをファインチューニングして使っている。ただ、どの程度のコストか具体的には示されていない。

こうして作成した AI Agent を用いて、2型糖尿病に対する GLP-1 受容体アゴニストの効果を調べるコホート研究について、どの患者さんで体重減少に効果があったのか、HbA1C の低下を誘導出来たのか、年齢別の効果などについての解析を示している。実際に16000人についてのデータなので、これを AI Agent でできるようになることは大きな進歩だ。

ただ、せっかく EHR の記述された内容を統合できるようにした割りには、症状の変化についてはうつ症状や痛みの変化のみが示されている。GLP-1RA について調べているとしたら、吐き気や消化器症状、それによる投薬中断などについてのデータを示してほしかったと思う。

以上が結果で、EHR の医師の記述部分という医療データとしては最も統合の難しい記録を統合できる方法の開発は素晴らしいことだ。実際カルテの記述情報をもう一度見直すことは時間と人手のかかる作業で、新しいガイドがあるだけで、元のカルテの参照もしやすくなる。

様々なプロンプトを用意する必要性などを考えるとあらゆる病気に対応するというより、特定の状態に絞った患者さんのデータをまとめる方が特異なので、まず治験やコホート研究に使われると思う。ただ、コンピュータ処理が可能な形で knowledge graph としてまとめられることから、このデータ自体が AI に蓄積され、各患者さんのデジタルツインとして、診療中に前のデータや問題点が指示出来るようなAIにまで発展できると思う。(9月10日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

カテゴリ:論文ウォッチ
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