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8月19日:細胞周期抑制治療の思わぬ効果(Natureオンライン版掲載論文)

2017年8月19日
現在乳がんの増殖を抑える期待の新薬としてCDK4/6阻害剤(ファイザーのパルボシクリブ、イーライリリーのアベマシクリブ、ノバルティスのリボシクリブ)の我が国での承認申請が行われており、すでにFDAはパルボシクリブ、リボシクリブを承認しており、よりCDK4への選択制の高いアベマシクリブもおそらく承認されていくだろう。すでに論文発表されている結果によれば単剤で延命効果が期待でき、乳ガンだけでなく、肺がん、グリオブラストーマ、メラノーマにも効果が認められている。しかし、CDK4/6阻害剤は細胞周期を停止させるがガンの細胞死を誘導できないことがわかっている。しかし単剤治療がガンの増殖を抑制するだけでなく、一部の患者さんではガンの退縮も認められる。

今日紹介するハーバード大学からの論文はCDK阻害剤で増殖抑制だけでなくガン退縮が起こる理由についてヒントを与える研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「CDK4/6 inhibition triggers anti-tumor immunity(CDK4/6阻害は抗腫瘍免疫を誘導する)」だ。

この研究ではまずマウスの乳ガンモデルを用いてアベマシクリブを投与した時、腫瘍が少しづつ退縮することを確認した後、ガン細胞内で何が起こっているのか遺伝子発現を調べ、期待通りサイクリン下流の分子発現が低下するだけでなく、クラス1組織適合性抗原とそれに抗原ペプチドを提示するトランスポートに関わる一連の分子の発現が逆に上昇していることを発見する。すなわち、乳ガン自体は増殖を止めても全く死ぬことはないが、ガンの免疫原性が上昇したことがガン退縮につながる可能性が示唆された。

次に免疫原性が上昇するメカニズムを検討し、これに関わる最も主要な経路として、CDK4/6・サイクリン活性抑制、E2F活性低下、メチル化酵素DNMT1発現低下、DNAメチル化低下による内因性ウイルスなどの活性化、type IIIインターフェロンの活性化、組織結合抗原を含むインターフェロンにより誘導される分子の発現、が寄与していることを示している。

これがマウスの乳ガンモデルだけの話でないことを示すために、実際にアベマシクリブの治療を受けた患者さんのバイオプシー標本を用いて、投与前、投与後でインターフェロンにより誘導される分子、炎症関連分子、さらには拒絶反応に関わる分子が上昇することを確認している。

ただ、話はこれだけではなく、免疫反応側でも、CDK4/6阻害は抑制性T細胞に強く働いて増殖を止めDNMT-1発現を低下させる一方、キラー細胞への影響は少ない。その結果、より強い免疫効果も得られるというものだ。

さらにキラー細胞の方ではPD-1やCTLA4の発現も低下して消耗が防がれる一方、ガンの方ではPD-L1が上昇している。そこで、PD-L1に対する抗体を同時に投与すると、より強いガン退縮が見られた。

以上が結果で、簡単に言ってしまうと「CDK4/6阻害剤はガン免疫誘導という点では理想の薬剤だ」になる。できすぎた話だが、説得力はある。細胞は完全なまま存在し続けることで、免疫が誘導されるなら、この薬剤を他のガンにも使ってみる価値は大きい。これまでの治験データを新しい観点から見直してみると同時に、今後はガン免疫の視点を加えた臨床観察を緻密に行い、画期的治療法へと発展させることが重要だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
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