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8月11日:ビデオの射撃ゲームは海馬神経細胞の減少を招く(Molecular Psychiatry掲載論文)

2017年8月11日
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通勤電車の中でスマフォを見つめている人の数の多さに驚くが、そのうちかなりの割合がゲームに興じている。私自身振り返ってみると、学生時代のパチンコとインベーダーゲームが最初で最後で、その後はほとんどゲームに興じるという習慣はない。しかし当時から、パチンコは言うに及ばず、インベーダーゲームで遊びすぎると脳が退化すると警告する人がいたのを覚えている。

   その後ゲーム産業は右肩上がりで成長し、現在の総売り上げは4兆円に迫る勢いのようだが、同時にゲームの内容も多様化したようだ。

   今日紹介するカナダ・モントリオール大学からの論文は、ビデオゲームの脳への影響をMRIを用いて調べた研究でMolecular Psychiatry にオンライン出版された。タイトルは「Impact of video games on plasticity of the hippocampus(海馬の可塑性に対するビデオゲームのインパクト)」だ。

   同じような研究はこれまでも何度か行われてきた。その中でこの研究の売りは、1)ゲームを単純に早い反応を競う射撃ゲームと、3次元空間認識を磨いて攻略するナビゲーションゲーム(例えばスーパーマリオなどが使われている)を区別して調べている点、2)ゲーム歴のない学生に90時間ゲーム訓練を行い、反射を高めるゲーム、ナビゲーションゲームそれぞれの海馬への影響を見て、因果性を調べた点だ。実際のゲームの内容はスーパーマリオも含めてほとんど知らないので、間違ったイメージを抱いているかもしれないことを断った上で、結果をまとめると次のようになる。

1) まず週に6時間はゲームに興じる大学生をリクルートし、反射の速さを競うシューティングゲームのプレーヤーと、シューティングゲームは嫌いだが同じようにビデオゲームは週6時間以上プレーする大学生のMRI画像を比べると、シューティングゲーム群では記憶や空間学習に関わる海馬の灰白質(神経細胞体が存在する場所)が明らかに減少している。

2) 次にビデオゲームをほとんどしない学生を集め、半分にはシューティングゲーム、もう半分にはスーパーマリオのような3次元空間ナビゲーションゲームを90時間練習させてMRI検査を行うと、予想どおりシューティングゲームを訓練すると海馬の灰白質が低下するが、逆に空間ナビゲーションゲームの場合は海馬の灰白質が増大する。

3) シューティングゲームを訓練したグループは、感情に関わる扁桃体の灰白質は増大している。

結論としては、反射の速さを競うシューティングゲームに興じていると、確かに反射は訓練できるが、海馬の細胞が減少することは間違いがない。一方戦略を必要とするナビゲームは海馬を増大させるので、今後はシューティングゲームにも空間ナビの要素を加えたゲームを設計し、シューティングゲームの問題点を解決することが必要だと述べている。従って、ゲームは間違いなく脳の器質的変化をもたらす。

しかし、この論文を読んでいて、それまでゲームをしなかった学生が、お金をもらえるとはいえゲームの訓練を受け、その結果海馬の灰白質が減少したなら、かなり重大な介入実験と言える。人間の脳研究をどのように進めるのか、早急に議論が必要だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
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