今年の4月に投稿された論文で審査プロセスが早いと思うが、それもそのはずでおそらく今週ぐらいにNatureに掲載予定のSean Morrisonのグループの論文で、「血液幹細胞ではビタミンCの濃度が高く、ビタミンCが欠損すると白血病発生が早まり、これがTet2の機能を介している」ことが発表されるからだろう。こちらの論文は昨年の9月に投稿されており、Seanの論文に合わせようと編集者やレフリーに便宜を図ってもらったのだろう。順番から言えばSeanの論文を紹介するのが筋だが、Cell掲載予定論文紹介していることと、メカニズムの解析が進んでいる点でこちらを選んだ。
ただ、これまで3日間紹介してきた論文と異なり、論文としてのまとまりがない。このグループは白血病で欠損が見られるTET2の機能を明らかにすることが目的だったようで、遺伝子ノックダウンを用いてDNA脱メチル化に関わるTET2のon/offができる実験系で、TETの機能が落ちることによる未熟幹細胞の増殖亢進・分化抑制を、TET2の発現量をあげることで正常化できること、メチル化異常が見られる場所がプロモーターを含むCpG ashoreと呼ばれる脱メチル化されている領域であること、そしてTET2を戻すことで転写が正常化し、分化を誘導することに関わる遺伝子を特定している。
要するに、正常血液幹細胞でも、白血病株でもTET2が低下すると、上に紹介した領域のメチル化が上がり、未熟細胞の増殖が亢進し、TET2を元に戻すことで白血病でも増殖を落とすことができるという結果だ。
Seanの論文の内容を途中で知って、TET2を戻す効果を、ビタミンCが持っていることに気づいたのかもしれないが(憶測だが)、次にビタミンCを加えると、TET2が存在しなくとも、他のTETの機能を高めることで、TET2遺伝子を戻したのと同じ効果、すなわち幹細胞の増殖を止め、分化を誘導し、ガンの増殖を抑えることを示している。
最後に、TET2の作用で発生するメチル化DNAが水酸化メチルに変わるまでの過程で発生する中間体が、塩基除去修復酵素をリクルートして、塩基が除去されることに着目し、この時修復を抑制するポリADPリボース重合酵素を抑制することで、さらに細胞死を促進できることを明らかにしている。すなわち、ビタミンC投与でTET2を高め、DNA修復をPARP阻害で抑えると、白血病を殺せるというシナリオだ。
最後の話はSeanの論文にはないので、点数が高いかもしれない。しかし、この研究で示されたように正常幹細胞の増殖分化がこれほどTET2の活性に左右されるとすると、ビタミンC療法やPARP阻害剤による副作用もかなり強い心配がある。
Cell論文紹介の最後は少しすっきりしない論文だったかもしれない。
カテゴリ:論文ウォッチ