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2月6日朝日新聞(岡崎)記事:新型出生前診断、染色体異常の2割見落とし,米研究

2014年2月7日
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今日の朝日新聞の岡崎さんの記事は高齢出産を考えられている読者が興味を持つ出生前遺伝子診断の話だ。出生前に胎児の遺伝子検査をすることで染色体や遺伝子異常を早期に発見し、異常が見つかった場合人工中絶するというメニューが我が国を始め各国で合法的に提供されるようになっている。もちろん胎児の選別に反対して検査を拒否する事も自由だが、検査を受ける方の気持ちも理解する必要がある。事実英国では診断後中絶を決断されるケースが9割を超すようになっている。我が国の現状はどの程度把握されているのだろう?今日岡崎さんが取り上げた研究は、胎児の異常を調べるための新しい遺伝子診断法(NIPTと呼ばれる)の診断率についての調査だ。胎児の染色体や遺伝子診断はこれまでおなかに針を刺して羊水中の胎児細胞を採取し、その細胞を用いて行われていた。しかし、低い確率とは言え破水して流産を起こす危険は皆無ではなかった。これに代わるより安全な方法として、お母さんの血液に流れているほんの少しの胎児由来DNAを調べる検査(NIPT)が開発され普及して来た。ただはっきりしているのは、この方法は知りたい異常を前もって決めておく必要がある。そのため21番目の染色体が3本になるダウン症などはほぼ間違いなく診断がつくが、18番染色体異常の場合は90%に診断率が落ちる。さらに問題は、21、18、13番染色体、及び性染色体の異常以外の遺伝子異常には全く無力である点だ。これまでの調査からも、羊水検査で異常が見つかる例の2割は、母親の血液を調べる方法では診断がつかない事が知られていた。岡崎さんが紹介した研究はこれを大規模な調査で裏付ける研究だ。残念ながら学会発表と言う事で、紹介されている研究を読む事は出来なかった。ただ、調べてみるとこの様な大規模研究はこれまでも行われ、論文として発表されている事がわかった。中でも、デンマーク全体の妊婦さんについての調査はいろいろな点で学ぶ所が多いので、岡崎さんの記事に加えて紹介したい。論文はUltrasound Obstetrics and Gynecologyオンライン版に掲載されたばかりで、タイトルは「Potential diagnostic consequences of applying non-invasive prenatal testing (NIPT); a population-based study from a country with existing first trimester screening (非侵襲的出生前診断を用いる診断上の問題:妊娠第一期スクリーニングが行われている国(デンマーク)の住民についての研究。)」だ。羊水検査と比べると診断率は低いが胎児の異常を調べるために超音波検査や生化学検査が既に使われており、出産年齢などを加味してリスクを算定する事が出来る。デンマークでは妊娠第一期に全ての妊婦さんがこの検査を受ける。その上で、医師と相談の上羊水検査やNIPTを受けるシステムが整っており結果が記録されている。この研究ではこの統計結果を4年にわたって調査し、NIPT診断の問題点を統計的に調べた。結果は岡崎さんが記事にした研究と同じで、23%の染色体異常がNIPTでは見過ごされる。特に45歳以上の高齢出産では、頻度の高い典型的染色体異常とは異なる異常が多発する事が予想されるため、NIPTは勧められないと言う結果だ。もう一つ重要な結果は、染色体異常を直接調べる検査ではないが、染色体異常を示した胎児では必ず超音波検査と生化学検査のどちらかで異常が見られた点だ。この結果に基づき、この論文では先ず超音波と生化学検査で一次スクリーニングを行い、問題のある人だけ医師と相談の上、年齢などの様々なリスクを勘案してNIPTか羊水検査を決めれば良いと提言している。おそらく我が国でもこれはガイドラインとして参照できる提言ではないだろうか。特に高齢出産が増えつつある事を考えると、是非我が国でも明確な指針として採用するのが懸命だと思った。もちろん羊水の染色体検査技術も急速に進歩している。CGHと呼ばれるDNAアレー法を用いる方法が安価になれば、しらみつぶしに異常を調べる事ができる。もちろん個人の負担でなら今でも出来る。そしてその先には全ゲノム配列決定があるだろう。様々な可能性を前もって考えておいた方が良さそうだ。 なお、この結果の計算根拠となった表は参考になるので後で翻訳して掲載しておく事にした。
カテゴリ:論文ウォッチ
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