カテゴリ:論文ウォッチ
2月21日:確実な体細胞リプログラミング(2月13日Cell誌掲載論文)
2014年2月21日
外国から帰って来てみると、小保方さんに関する報道が大変な事になっている。おそらく今は少し冷静になって、個人の問題と、研究自体の問題をわけて考える必要があるようだ。研究については今週23日ニコニコ動画で取り上げる。毎日新聞の須田さんと、多能性についての専門家中武さんも入って率直な話をしたいと思っている。いずれにせよ論文の責任著者が早くコメントを出す事が必要だろう。私自身が最初から懸念したように、日本のメディアは2007年で知識が止まったまま、効率・安全性と言った枝葉末節な点を取り上げてSTAPを報道した。この様なマスメディア状況については、自分の話の宣伝に終始して世界の研究動向を正確に伝えてこなかった山中さん初めこの分野をリードする我が国の研究者にも責任がある。そんな折、Cell誌に分裂速度が極端に早い細胞はリプログラムされやすいと言う仕事がエール大学から発表された。タイトルは「Nonstochastic reprogramming from a privileged somatic cells (特別な細胞ではランダムではないリプログラミングがおこる)」。リプログラミングのメカニズムに関する研究は終わっていない。研究は山中因子の発現をon/offできるマウスを用いて、リプログラミングの起こりやすい細胞を探したところ、血液細胞の中でも顆粒球やマクロファージに分化する分裂速度の高い幹細胞ではOct4の発現で見たときのリプログラミングの確率が高いと言う発見から始まっている。事実4回分裂を繰り返すとほぼ全ての細胞がリプログラムされている。この効率は、高速に分裂し続けている細胞ほど上昇し、増殖を抑制するメカニズム(p53など)を除いてやると、ほとんどの細胞が簡単にリプログラムされる。これは血液に特異的ではなく、定番のファイブロブラストも増殖速度の高い細胞を選べば効率が上がると言う結果だ。論文は増殖キネティックスがリプログラミングを決める重要な因子だと言う単純な結論になっている。研究自体は、現象論に終始し、それもOct4の発現だけしか見ていないなど雑な面も多い。また、結論も単純すぎる。例えば、細胞が急速に増殖すると言う事は、エピジェネティックな状態の揺らぎが大きい可能性も高い。そう考えてみると、この仕事も小保方さんのSTAPと共通するリプログラミングの側面を示しているかもしれない。前にも述べたが、多能性へのリプログラミングが生理的なはずはない。そんな事が可能なら、プラナリアは全能性の幹細胞を体中に維持しておく必要が無くなる。日本を代表する研究者も出来る限り物事の本質を伝える努力を怠ってはならない。分野全体の進展を正確に伝えて行く事が必要だ。研究社会の成熟度こそ今必要とされているのかもしれない。