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8月29日:基礎と臨床の関係;エリスロポエチンの意外な効果(8月27日号アメリカ医師会雑誌掲載論文)

2014年8月29日
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基礎研究と臨床のギャップがよく語られる。しかし両方の関係は単純ではない。基礎研究が晴れて臨床応用される場合もあるが、臨床的には効果があるのだが、基礎的にはメカニズムがわからないことも多い。おそらく統合医療と呼ばれる治療の中で、エビデンスを持って効果が確かめられている方法のほとんどはこれに当たる。今日紹介する論文での基礎と臨床の関係も複雑だ。エリスロポエチンは赤血球造血に必須の分子で、この分子がないと当然生きられない。早くから臨床応用の進んだサイトカインで、例えば透析患者さんの腎性貧血の治療を始め、赤血球が減少する病気に広く使われている。これは基礎研究から臨床研究へ橋渡しが進んだいい例だ。1990年の中頃だっただろうか、私がまだ京大の分子遺伝学教室教授だった頃、サイトカインの学会で京大の農学部の佐々木さんのグループが、エリスロポイエチン受容体が脳で発現しており、脳虚血にエリスロポエチンが効くと言う話をしたのを覚えている。勿論これは基礎研究だが、生物学的意味があるとは思えないと当時の基礎医学会ではあまり真剣に取り上げられなかったのではと思う。事実この分野の研究は拡がりを見せなかった。今日紹介するジュネーブ大学医学部からの論文は、ほとんど忘れられていたエリスロポエチンの基礎分野の研究を臨床に応用して、予想以上の効果を得たと言う論文で、8月27日号のアメリカ医師会雑誌に掲載された。タイトルは「Association between early administration of high-dose erythropoietin in preterm infants and brain MRI abnormality at term equivalent age(早産児へのエリスロポエチン大量投与は通常出産相当時期の子供の脳MRI異常を改善する)」だ。前書きを読むと、この研究が、細々と続いていた動物モデルの基礎研究に啓発され、ヒトへの応用を進めたことが書いてある。研究では約29週で生まれた平均1300gの未熟児に、誕生直後、半日後、2日後にエリスロポエチンを投与し、通常出産に相当する40週前後でMRI検査を行い、脳の異常を調べている。30週未満で生まれる未熟児で最も心配なのは脳障害だ。脳質の周りの脳細胞が死んでしまって軟化しているMRI像は、何と1割以上の未熟児に見られ、新しい治療法開発が待たれていた。この研究では、この様な脳白質に起こる異常と、灰質に起こる異常をスコア化して点数をつけ、エリスロポエチンを投与したグループと投与しなかったグループを比べている。結果は予想通りで、異常の発症はほぼ半減し、異常の段階を示すスコアも大幅に改善している。論文ではあまり触れられていないので、おそらくエリスロポエチン投与自体による副作用はあまりなかったようだ。この結果だけ見れば、明日から未熟児にはエリスロポエチン治療を行えばいいと言うことになるだろう。しかしMRIが正常化したからと言って本当の脳機能が回復したことを意味しない。今後、参加した子供達の脳機能を長期間追跡することが重要だ。機能的にも脳障害の発症が抑制されることがわかれば、標準的な治療へと発展するだろう。これまでの研究で、MRI画像と脳機能の相関は示されているので、個人的には大きな期待を寄せている。期待通り大きな脳障害予防効果があった場合、今度はそのメカニズムを探る基礎研究が必要になる。本当に脳細胞に直接効いているのか、あるいはほとんどの基礎科学者が考えるように、血液への効果が間接的に脳に影響を及ぼしているのか?このように研究では基礎も臨床も複雑に絡み合っている。しかし、それにしてもエリスロポエチンを投与する研究なのに赤血球の数も示されていないのは解せない。
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