専門家のアドバイスをよくする8つの方法
1) 個人的意見に依存せず、グループ討論などを通して意見を聞くこと。
2) メンバーを注意深く選ぶこと。分野が少し離れると専門家の知識も急速に色褪せる。
3) 有名研究者の意見に偏るな。年齢、論文数、経験、学会の地位、見た目の公平性などから、その専門家の新しい問題に対する能力を判断することはできない。これについては、原子力の安全性や地球レベルのエコロジーについての意見を見るとわかる。
4) 多様な人から意見を聞く。多様な人を集めた時のほうが正しい結論を導きやすい。
5) めげるな。政策に自信や主張は強くなくても、情報を様々なソースから集めてくる人のほうが良い決断をする。
6) 専門家の意見の重要度を評価する。例題を用意して専門家の能力をチェックする。これによって、地震や核の安全性といった難しい問題を含む様々な領域で、リスク評価の改善が図れる。
7) 専門家を訓練する。訓練によって、特定の事象が起こる確率、そのインパクト、モデルパラメーターなどを評価する専門家の能力は改善する。
8) フィードバックを行う。例えばチェスプレイヤー、スポーツ選手、ICUの医師、そして教科書的問題を解く物理学者は、はっきりわかる個人的失敗についてフィードバックを受けることで正確な判断ができるようになる。専門家も同じで、できるだけ速やかに、はっきりしたフィードバックを提供すべき。
ユーモアも交えた、十分含蓄のある良い提言だ。他にも専門家に質問する時、まず簡単に電話で話、問題を整理しメールで質問の趣旨を明確にし、その上で匿名のアンケートで意見を集めるなど、具体的な方法まで文中には教示されているのでぜひ読んでほしい。
ただ読んでいて思うのは、我が国の政治家や官僚が、本当にこのような必要性を感じているのかという疑問だ。まずこの提言に従うと言うことは、政治家や官僚が専門家の意見をよく聞いて、判断は決然と自分が行うと言うことだ。確かに日本の役所も、専門家の集まる委員会を数多く組織し、話を聞いているように見える。ただ私の印象だが、多くの決定に際し、おそらく少数の研究者の意見をもとに前もってまず落とし所を定め、それを裏付けるために専門家の意見を聴いている場合が多いのではないだろうか。これだと順番が逆で、委員会で多様な意見を聞く意味がなくなる。 ではなぜ意見を聞いてから自分で判断することが難しいのだろう?それは、官僚や政治家側に科学的知識がないと、意見を理解した上で判断を下すことができないからだ。個人の政治家や官僚が専門家の意見をすべて理解して判断するのは簡単ではない。従って、一定の科学知識をプールして、政治家や官僚の意思決定を支えるシンクタンクが必要になる。文科省で言えば、政策研究所、JST、JSPS内に将来の政策のためにデータを集め分析する部門がある。私も科学技術政策を議論する会議に参加し、インタビューに答えたこともあるが、正直うまく機能しているようには見えない。要するにシンク「タンク」として知識が蓄積されるような構造がどこにもない。
私は2002年まで京大医学部に在籍したあと、新しく設立した理研発生再生科学総合研究センター(CDB)に移った。CDB設立準備に関わる中で、科学者、政治家、官僚が個人的な会合を頻回に開いて情報を交換し、意思決定がなされていく姿を垣間見た。政治家や官僚はこの私的な会合を通して今後重要になる科学領域にについて一定の知識を身につけ、それを政策決定に生かしていた。この方法では有力科学者のその場の意見に依存してしまうように思えるが、私の経験ではわりと多様な研究者の意見を聞いていたように思える。ただ、民主党政権が生まれ政権交代が現実となると、この私的なメカニズム維持する時間と金の余裕はなくなってしまったのではないだろうか(現状は全く把握していない)。この結果、我が国から専門家の意見をよく聞いた後、それを咀嚼して判断を下せる政治家や官僚が減ったのではないだろうか。私も政権交代が現実となった政治システムでは、私的メカニズムではなく、政治家や官僚の政策決定を支える、一本化された信頼の置ける科学政策のシンクタンクが必要だと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ