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10月18日:脳深部刺激のおどろくべき効果(10月15日号Nature掲載論文)

2015年10月18日
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我が国でもパーキンソン病の治療として保険適用されている脳深部刺激療法は、脳内に埋め込んだ電極から電気インパルスを脳の目的の領域に与えて、様々な脳の機能不全を治す方法で、行っていることは心臓のペースメーカーと同じと考えていい。現在対象となる病気は拡大し続けており、脳海馬の刺激によりアルツハイマー病などの記憶障害にも一定の効果があることを示す第1相の治験が報告されている。これほど様々な効果が脳深部刺激療法に確認されているにもかかわらず、効果のメカニズムについてはよくわからない点が多く、動物モデルを用いた研究が重要になる。もしメカニズムが明らかになってくると、脳の発達が障害される様々な子供の病気にも使いやすくなる。今日紹介するテキサスベイラー医大のこども病院からの論文はレット症候群のモデルマウスの脳発達異常を深部刺激療法で治せないか調べた研究で10月15日号のNatureに掲載された。タイトルは「Forniceal deep brain stimulation rescues hippocampal memory in Rett syndrome mice(脳弓に対する深部刺激はレット症候群モデルマウスの海馬記憶障害を救える可能性がある)」だ。タイトルにあるレット症候群はX染色体に存在するMeCP2遺伝子の突然変異が原因による疾患で、ほとんどが女児におこり、1歳を超えるまで何の異常もなかった子供が急速に進行性の脳障害を示すようになる。遺伝子の機能から考えると神経発達の異常によると考えられるが、現在のところ手の施しようのない病気だ。この研究では、この発達障害を脳深部刺激で救うことができないか調べている。まずレット症候群モデルマウスの脳弓と呼ばれる部分に電極を埋め込み1日1時間電気バルスを与え続ける。このマウスの連合記憶を調べると、刺激を与えないマウスと比べて記憶の低下が防止され、正常マウスと変わらない。また正常マウスに刺激を与えると、さらに記憶が促進することから、新しい回路の発達を促すことで効果を持つようだ。他にも空間の学習記憶も改善する。期待通り、行動学的にはレット症候群の神経障害の進行を止めることができる。次に同じモデルを使って、神経生理学的・発生学的検討を行っている。神経生理学的には、細胞レベルで長期記憶の成立を調べ、深部刺激によりレット症候群マウスの海馬記憶回路のシナプス結合が高まり長期記憶の低下を抑制できることを示した。最後に、この原因を細胞レベルで確かめる目的で、海馬神経細胞の増殖を調べると、驚いたことに、深部刺激が細胞の増殖を強く誘導することがわかった。すなわち、海馬で新しい細胞が生まれ続けることで、記憶障害を抑制することができたという結果だ。この研究はまだ現象論にとどまっている。なぜ深部刺激が若いマウスでは細胞増殖を誘導するのかなど調べなければならない点は多い。しかし、全く手の施しようがなかった子供の病気の進行を抑える一つの可能性を示したことは確かだ。子供の場合、いつからどのように刺激するか、いつまで刺激が必要なのか、多くの課題が残っているが、おそらくこのグループはこの結果を元に臨床研究に進むだろう。期待して見守りたい。
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