8月7日:膵臓癌の意外な治療薬(Oncogeneオンライン版掲載論文)
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8月7日:膵臓癌の意外な治療薬(Oncogeneオンライン版掲載論文)

2018年8月7日
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これまで何ども強調しているように、現在まですい臓がんの治療は限られており、外科手術で切除しきれないステージでは、薬剤の効果も長く続かず、予後は極めて悪い。なら免疫療法はと考えるが、他の癌と比べてチェックポイント治療が効果を示さないケースが多い。いつかこの問題も解決され、ステージの進んだすい臓がんの治療も可能になると確信しているが、今苦しんでいる患者さんに対しては、一つでも治療オプションを増やすしか方法がない。そんないくつかの可能性については、Youtubeで紹介しているので是非参考にして欲しい(https://www.youtube.com/watch?v=tOTvpFBfCc8&t=24s)。

今日紹介するロンドン大学からの論文は、まだマウスの話だが、ひょっとしたらすい臓がんの患者さんの延命に役立つかもしれない情報に思えたので紹介することにした。タイトルは「GPR55 signalling promotes proliferation of pancreatic cancer cells and tumour growth in mice, and its inhibition increases effects of gemcitabine (GPR55シグナルは膵臓癌の増殖とマウスでの腫瘍増殖を促進し、その阻害はジェムシタビンの効果を増強する。)で、Oncogeneのオンライン版に掲載された。

タイトルにあるGPR55はlysophosphatidylinositolの受容体だが、大麻成分であるカンナビノイドにも反応することがわかっている。なんとこの大麻成分に反応するGPR55が多くのガンに発現しており、最も悪性のすい臓がんでも25%がGPR55を発現している。この研究ではすい臓がん発がんモデルを用いて、GPR55をノックアウトしたマウスではすい臓がんの発生が1ヶ月とはいえ遅れることをまず確認している。さらに都合のいいことに、ステージが進むほどGPR55の発現が上昇し、ガンのGPR55への依存性が高くなる。

試験管内で増殖しているすい臓がん細胞を用いて、GPR55がどの過程に関わるか調べると、MAPキナーゼ経路のERKのリン酸化を介して細胞増殖に関わり、p53により誘導されたマイクロRNA、miR34b-3pによりGPR55のmRNAが分解されることで、細胞の増殖が抑えられる。逆に言うと、ガンでp53が喪失すると、GPR55発現が高まり、増殖が上昇することを示している。

最後に、ではこの受容体をGPR55の拮抗剤で、やはり大麻から抽出できる阻害剤カンナビディールで抑制するとガン細胞の増殖が抑えられるか検討し、期待通り試験管内での細胞周期を抑制し、また単独では抑制効果は強くないが、すい臓がん治療に最もよく用いられるジェムシタビンと併用することで、寿命を20日程度延長することが出来ることを示している。

結果は以上で簡単な論文だが、思いがけず大麻成分により抑制できるGPR55シグナルがp53の喪失により発現し、がんの増殖を助けており、この過程を標的にしたカンナビディオールをジェムシタビンを組み合わせることで、マウスの延命を図ることができるというシナリオだ。残念ながら根治を望める治療法ではないが、カンナビディオールは向精神性が低く、安全に使える薬剤の一つなので、もし延命効果があるなら使う価値はあると思う。早く人間での臨床治験を望みたい。
カテゴリ:論文ウォッチ