8月15日:変わる蛍光抗体染色:見るから読むへ(8月9日号Cell掲載論文)
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8月15日:変わる蛍光抗体染色:見るから読むへ(8月9日号Cell掲載論文)

2018年8月15日
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7月31日、アイソトープ、酵素反応、蛍光などを標識した遺伝子プローブを用いて遺伝子発現を「見て」いたこれまでのin situ hybridization法を、バーコードでラベルしたプローブを用いて、発現遺伝子を「見る」代わりに、塩基配列を「読む」ことで検出するという、今年京都賞を受賞したDeisserothtたちが開発した画期的な論文を紹介した(http://aasj.jp/news/watch/8740)。

同じように塩基配列をバーコードとして用いる方法は、抗体による組織染色にも用いることができることを示したのが今日紹介するスタンフォード大学からの論文で8月9日号のCellに掲載された。タイトルは「Deep Profiling of Mouse Splenic Architecture with CODEX Multiplexed Imaging (CODEX多重イメージングによるマウス脾臓の構築の詳細な解析)」だ。

この研究を行ったのはCyTofと呼ばれる単一細胞の発現するタンパク質を、さまざまな金属イオンでラベルした抗体を用いて、フローサイトメトリーと連結させたTOFで検出するという離れ業を開発したGary Nolanらのグループだ。光遺伝学や新しいin situ hybridizationを開発したDeisserothもスタンフォード大学で、この大学にはHerzenbergによって開発されたFACSの伝統が今も息づいているのを感じる。

さて、タイトルにあるCODEXと呼ばれる方法だが、Co-detecting by indexing(インデックスを用いて同時に検出する)の略で、抗体を蛍光物質でラベルする代わりに、異なる塩基配列を持つ核酸で標識して、その核酸の配列をインデックスとして用いて組織上で読み取ることで、抗体が結合する分子の組織局在を調べる方法の開発だ。Deisserothと同じように、組織中でインデックスの配列を読みとる方法も用いることができるとは思うが、抗体染色の場合利用可能な抗体の種類も限られており、1000種類もの異なる分子を調べることはまずないことから、数十種類の異なる抗体を別々にインデックスするのに適した方法を新たに開発している。

具体的には5‘端が2、3、4、5merと異なる長さの一本鎖オーバーハングを持つDNAでそれぞれの抗体をラベル、2merづつオーバーハング末端を埋める(endfilling反応)時に蛍光標識核酸を取り込ませ、反応が終わったところで顕微鏡で写真をとる。写真撮影後蛍光分子だけを組織から切り離して洗い流した後、次に残った3mer(実際には最初の反応で一つ塩基が埋まってこのラウンドでは2merのオーバーハングになっている)を埋める時に、同じように蛍光分子を末端に取り込ませる。このサイクルを繰り返せば、一回に2色、うまくインデックスを設計すれば、原理的には幾つでも異なる抗体を用いた組織抗体染色ができるというわけだ。

蛍光物質を用いそれを顕微鏡で撮影する点では従来の螢光抗体法と同じだが、endfilling反応を行う各ラウンドで同じ蛍光物質を用いても、前のラウンドで使った蛍光標識は洗い流しているので、ラウンド毎の蛍光撮影結果を重ねていくことで、多重染色と同じ結果が得られる。「見る」のではなくインデックスを「読む」ことで、何十種類もの抗体による組織染色に成功している。ただ、シークエンス反応とは異なり、反応時間は短いため、30の異なる抗体による染色はだいたい3.5時間で終了する。逆に、時間をかければ、組織が反応の繰り返しに耐える限り、そして抗体が手に入る限り、ほぼ無限の種類のタンパク質を組織上で検出できることになる。

この方法の有効性を示すために、自己免疫反応が自然に起こるMRLマウスの脾臓での組織細胞構築の変化を30種類の抗体で追跡して、これまでの組織染色法では不可能だった様々な情報を一挙に得ることができることを示している。例えば、組織内で起こる細胞相互作用の動態(i-nichと呼んでいる)を単一細胞レベルで調べることができ、これまで調べることが難しかった、環境ニッチにより発現が変化しやすい細胞表面シグナル分子を特定するなど極めて詳細な解析が可能になっているが、詳細の紹介はいいだろう。この方法のポテンシャルがお分かりいただければ十分だ。

私が大学に入るより少し前に、蛍光抗体染色法がクーンズらにより開発されたが、それから半世紀を経て、今全く新しい方法に生まれ変わろうとしているのがよくわかる。現役を退いて5年になるが、生命科学分野の革新の速度に本当に圧倒される。
カテゴリ:論文ウォッチ