8月9日:ポイツ・ジェガース病発症メカニウム:通説は覆る(7月27日号Science掲載論文)
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8月9日:ポイツ・ジェガース病発症メカニウム:通説は覆る(7月27日号Science掲載論文)

2018年8月9日
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ポイツ・ジェガース症候群(PJ病)は、消化管に多くのポリープができる遺伝病で、過誤腫と考えられているように、良性の腫瘍だが現在のところ治療法は手術しかない。病因については、1998年セリンスレオニンキナーゼのひとつSTK11であることが明らかになり、腫瘍抑制遺伝子として働くこの分子の発現量が低下することで、上皮が異常増殖を起こすという説で納得していた。実際、同じ患者さんは他のガンの発生率も高く、この通説は20年近くあまり疑われることも無かった。

しかしなんでも確かめてみるもので、今日紹介するカナダ マクギル大学からの論文はPJ病がT細胞異常による炎症性に発症するポリープであることをマウスモデルで示した研究で7月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「LKB1 deficiency in T cells promotes the development of gastrointestinal polyposis(T細胞でのLKB1 (STK11)欠乏は胃腸のポリープ形成を促進する)」だ。

PJ病についてはSTK11をノックアウトしたモデルマウスも作られていたが、おそらく病巣の炎症細胞の浸潤が強いことから、本当に上皮の増殖異常によるポリープかどうか調べようと思い立った。まず上皮や平滑筋特異的にSTK11をノックアウトしてみると、平滑筋でのノックアウトではポリープが低い確率で発生するが、上皮で欠乏してもポリープはみられない。そこで全血液細胞、及びT細胞、B細胞特異的にSTK11が欠乏するマウスを作成すると、全血液細胞、T細胞特異的欠乏で全例にポリープが形成された。すなわち、PJ病のポリープは上皮細胞の内因性の異常ではなく、T細胞の活性が変化して炎症が起こり、それにより刺激されることがわかった。

これがこの研究のハイライトで、あとはT細胞で何が起こっているのかを解析して、最終的には治療法の開発を目指すことになる。まず、T細胞側でSTK11の発現が半分に減少すると、IL11,IL6,IL17, TNFなど多くの炎症性サイトカインの発現が高まっている。同時に、間質の方でもこのような炎症性サイトカインへの反応性が高まっており、両方が合わさって強い増殖が起こることも明らかにしている。中でも、IL-6―STAT3経路と呼ばれるシグナルが最も重要な役割を果たしていることがわかるが、IL-6だけをノックアウトしてもポリープはできる事から、STAT3を活性化するさまざまなサイトカインの関与が考えられる。そこで、白血病治療に用いられているJAK2阻害剤を投与すると、T細胞の浸潤が消失し、ポリープの大きさが減少する事から、治療薬として用いることができる可能性がある。

かなり省略して紹介したが、要するにPJ病の中心には炎症性T細胞の関与があるという話で、これをコントロールすることで、手術以外の治療も開発できる可能性がある。ただ、ではT細胞だけかと言うとそうではなさそうだ。もしそうなら、T細胞移植を行う実験が行われるはずで、おそらくT細胞活性化だけでは病気にならず、間質や上皮の状態も重要な要因になっているような印象を受ける。JAK2服用が現実的かどうかは別として、他にも治療法が出てくるような気がした。
カテゴリ:論文ウォッチ