11月6日 腸内細菌がインシュリン抵抗性を誘導するメカニズム(11月1日号Cell掲載論文)
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11月6日 腸内細菌がインシュリン抵抗性を誘導するメカニズム(11月1日号Cell掲載論文)

2018年11月6日
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何度も繰り返すが、これまで細菌の種類が上がったり、下がったりと現象論に終始していた細菌叢研究は、現在急速に具体的な因果性を明らかにするための研究に転換している。例えば、これまでは2型糖尿病の細菌叢と、正常の人の細菌叢の比較で終わっていた研究が、細菌叢の違いが糖尿病につながるメカニズムを明らかにする研究へと転換しつつある。そのおかげで、細菌叢に対する具体的な介入方法も徐々に明らかになるのではと期待が持てるようになってきた。

今日紹介するスウェーデン ヨテボリ大学からの論文はまさにこのトレンドを代表する研究と言っていいだろう。2型糖尿病でのインシュリン抵抗性が2型糖尿病患者さんの細菌叢が分泌するイミダゾール・プロピオン酸によって誘導されるメカニズムを明らかにしている。タイトルは「Microbially Produced Imidazole Propionate Impairs Insulin Signaling through mTORC1(細菌叢により合成されるイミダゾール・プロピオン酸はmTORC1を介してインシュリンシグナルを阻害する)」だ。

この研究では、最初から2型糖尿病の患者さんの腸内細菌叢から分泌されるアミノ酸の代謝物が、糖尿病のインシュリン抵抗性を誘導するという仮説を持って、これをどう証明するかに焦点を当てて研究を行なっている。腸内細菌叢で分泌される分子はまず肝臓へ門脈を通って移行することがわかっているので、まず門脈で特に上昇しているアミノ酸代謝物を肥満で糖尿病の人と、正常で比べている。もちろん、門脈採血などは普通できないが、この研究では腹腔鏡下の手術の機会を利用して、採血を行っている。その結果、イミダゾール・プロピオン酸(ImP)が糖尿病の人と門脈て高いこと、そして、糖尿病の患者さんの細菌叢のみがヒスチジンを加えたときにImPを作ることを明らかにする。すなわち、糖尿病の細菌叢特異的なアミノ酸代謝物としてImPを特定する。この研究のハイライトは、この発見に尽きる。あとは動物実験で、ImPを注射した時、糖尿病を誘導できるかどうか順々に調べれば良い。

実際、ImPをマウスの注射すると、いわゆるインシュリンへの反応性が低下するインシュリン抵抗性が誘導される。すなわち、インシュリンのシグナルが阻害される。あとは、インシュリンシグナルが阻害される過程を探索し、

1) ImPの作用でp38γ分子の自己活性化が起こる。
2) 活性化されたP38γはp62をリン酸化する。
3) リン酸化されたp62はmTORC1を活性化する。
4) mTORC1はS6K1をリン酸化により活性化する。

5) リン酸化S6K1はインシュリン受容体下流のIRSをリン酸化して、分解する。

という、シグナルカスケードの結果、インシュリンシグナルを阻害することがわかる。 そして何よりも重要なのは、多くの細菌の代謝経路を調べ、ヒスチジンがImPへと代謝される中間過程ウロカニン酸からImPを作れる経路を持つ細菌で2型糖尿病の細菌叢に濃縮されている種類を28種類特定できている点だ。そしてその例としてStreptococcus mutansとEggerthella lentaなどが挙げられている。詳細は省くが、このような細菌が高カロリー食により誘導される可能性についても考察しており、今後この過程をコントロールできれば、少なくともインシュリン抵抗性を改善できる可能性がある。

いずれにせよ、腸という大きな発酵タンクをどう調整するか、あるべき方向が徐々に見えてきている。
カテゴリ:論文ウォッチ