11月26日:司法判断を科学的に検証する(Nature Human Behaviour掲載論文)
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11月26日:司法判断を科学的に検証する(Nature Human Behaviour掲載論文)

2018年11月26日
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特に最近テレビを見なくなったが、それでもサスペンスドラマは好きで、出来るだけ見ようと時間をやりくりしている。ところが最近の刑事ドラマを見ていると、数年前とは大きく内容が変化したように思える。まず女性の刑事が主人公のドラマが圧倒的に増えた。それと、警察トップやキャリアは忖度して現場に圧力をかけるのが当たり前で、それに屈しないで真実を追求する一匹狼の刑事や警官の話が多い気がする。もちろん、見終わった後の満足感は大きくいつも喝采をあげているが、しかし考えてみると、警察トップは政府や組織が大事で、決して正義など求めていないと考える風潮が蔓延しているとしたら問題だ。ぜひこんな話がドラマで終わるよう努力しないと、私たちの国はとんでもないことになるだろう。

ちょっと脱線したが、今日紹介したいデューク大学医学部からの論文はまさに司法上の正義の問題で、主に一般人の行う司法判断に潜むバイアスを階層的ベイズモデルを用いて分析した研究だ。Nature Human Behaviourに掲載予定論文でタイトルは「Modelling the effects of crime type and evidence on judgments about guilt (犯罪の種類と証拠が有罪判断に及ぼす影響)」だ。

わが国の現状は把握していないが、陪審員制度が定着している米国では、司法判断が公正に行われているのか、学問として常に検証を行っているようだ。ところが、これまでの調査のほとんどは、多くの統計データを見て人間が問題を判断する手法で行われていた。そこで、この研究ではウェッブで集めた成人の判断を、それに用いた様々な条件を階層的ベイズ法を用いて統計計算することで、判断を客観的に行おうとした研究で、このような分野では画期的な試みと言えるのかもしれない。

研究ではおそらくこれまでに行われた裁判記録をもとに、万引きから強姦殺人まで33の裁判シナリオを被験者に示し、その時の証拠の内容や、目撃情報、前科の有無など、様々な条件をもとに、それぞれのシナリオで有罪にする根拠をほとんどないから確実まで点数をつけさせるとともに、有罪の場合はどの程度の量刑が適当かを、無罪から終身刑までの中から選ばせる。この点数と、それぞれの判断に用いられた条件、例えば犯人のDNAが現場から検出されたなど、模擬裁判シナリオで提供されている証拠のどれを使ったかなどを総合して、司法判断が何に基づいて行われているのかを推計している。 また、検察官、法廷弁護士、司法を学んでいる学生にも同じ実験を行なっている。

結果は以下のようにまとめられるだろう。
1)階層的ベイズモデルは計算が大変だが、司法分野の科学的分析にも有力な方法となる。
2)基本的には、ほとんどの人がDNAを筆頭に物的証拠を重視し、目撃証言や前科などにはあまり重きを置かない判断をしている。
3)とはいえ、同じような犯罪歴がある時、それが判断に影響する率は10%も存在する。
4)証拠以外にも、犯罪の重大さ、証拠の種類など、直接有罪無罪に関係ない、Crime effectと呼ばれる指標が影響する。
5)学生も含め、司法関係者は物的証拠重視が徹底してる。
6)意外なことに、前科を重視しないという点では検事が一番徹底している。
7)物的証拠や目撃者などを判断材料にする時、司法関係者はほとんど証拠以外のCrime Effectが見られないが、一般人ははっきり存在する。
8)犯罪の量刑が重いほど、有罪判断の自信が高まる。これは、司法関係者も同じ。

きわめて常識的だが、しかしこれは全てベイズモデルを用いて判断された結果である点が大きい。もちろん、データを見て考える重要性は今後も変わらないだろう。しかし、今回のようにベイズ推計を積極的に利用することは重要だろう。というのも、いいか悪いかは別として、裁判の結果をAIで評価する未来と繋がっている。あるいは、AIで先に判断するようになるのかもしれない。これにより、裁判とは何かが問い直されると思う。 いずれにせよ、司法によって立つ人間の判断を常に科学的に確かめることで司法に対する国民の信頼も維持されるのだろう。その意味で、刑事ドラマが映し出す世相を考えながら、わが国はどこへ行こうとしているのかを考えざるを得ない今日この頃だ。
カテゴリ:論文ウォッチ