1月19日: 子癇前症(妊娠高血圧腎症)の発症メカニズムと治療(1月10日Cell掲載論文)
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1月19日: 子癇前症(妊娠高血圧腎症)の発症メカニズムと治療(1月10日Cell掲載論文)

2019年1月19日
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妊娠後期に妊婦さんが発作的に痙攣や失神を起こす恐ろしい病気があり子癇という難しい病名が付いているが、この発作の背景にある状態が子癇前症、現在では妊娠高血圧腎症と呼ばれている、妊娠時に起こる高血圧、末梢循環障害に伴う、腎臓病で、私が習った時はもちろん、現在までメカニズムが不明で、従って対症療法に頼り、出産してしまう以外の根治方法はなかった。

今日紹介するスイスチューリッヒ大学からの論文は子癇前症の分子メカニズムを明らかにし、治療可能性を示した画期的な研究成果で、1月10日号のCellに掲載された。タイトルは「Beta-Arrestin1 Prevents Preeclampsia by Downregulation of Mechanosensitive AT1-B2 Receptor Heteromers (Beta-arrestin 1 preeclampsia by downregulation of mechanosensitive AT1-B2 receptor heteromers (AT1-B2ヘテロ受容体の機械刺激感受性をベータアレスティンが低下させ子癇前症を防ぐだ)。

これまでも子癇前症では血管平滑筋のアンギオテンシンII(AT2)感受性が、その受容体の発現が上昇することで高まって起こると考えられていた。この時AT2のシグナルを伝えるAT1にもブラディキニン受容体B2が合わさると、AT2に対する感受性が高まり、血管が強く収縮するのでこれが子癇前症の背景になっているとされていた。

この研究ではこの可能性を調べるため、AT1とB2の平滑筋での発現が2倍程度に上昇し、AT2に対する感受性が上昇しているトランスジェニックマウスを作り実験に用いている。まず、妊娠後期で子癇が現れるということは、胎児が成長して血管が機械的刺激にさらされると、収縮が起こると考えられるが、このトランスジェニックマウスでも機械的刺激が血管収縮を誘導し、妊娠すると子癇前症を発症すること、この反応がAT1とB2のヘテロ2量体形成により起こることが明らかになった。

以上の結果は、AT1/B2ヘテロ2量体形成を抑えることで、子癇前症での血管収縮を抑制できる可能性がある。これを確かめるべく、ヘテロ2量体を分離させる働きがあるβアレスチンと呼ばれる分子をレンチウイルスベクターに運ばせてマウスに導入すると、平滑筋症状が低減されることが明らかになった。以上の結果から、子癇前症では、様々な原因でAT1/B2の発現が上昇するとともに、両者の2量体形成を分解させるβアレスチンの活性化がうまく働かないと、受容体の感受性が高まり、妊娠により機械的な刺激を受けることで、血管が収縮し、子癇前症が起こると考えられる。

したがって、AT1/B2の発現を下げ、アレスティンの活性を高めて、2量体を分離させることが有効な治療になると考えられる。この研究では最後に,このアレスチンによる2量体の分解活性をTRV027と呼ばれる薬剤が促進すること、また高血圧によく使われるカルシウム拮抗剤のうちのアムロジピンがアレスチンの発現を高め、AT1/B22量体形成を阻害することを発見する。

TVR027はまだ認可された薬では無いので、この研究では最後に子癇前症の患者さんにアムロジピン、ニフェジピン(異なるタイプのカルシウム拮抗剤)、平滑筋弛緩剤ヒドララジンを別々に投与して、その効果を比べると、全て血圧降下という点では同じだが、子癇前症のマーカーとなる血中FLT1の上昇はアムロジピンのみで抑制された。また、マウスの子癇前症モデルでも効果が見られるので、今後、子癇前症の場合血圧を下げる薬剤としてはアムロジピンを第一選択にするのがいいことがわかる。また、TVR027あるいは同じメカニズムを持つ薬剤の開発も完成されれば、子癇前症にも対応できる可能性が高い。臨床に即繋がる基礎研究のお手本のような論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ