1月30日 アルツハイマー病は歯周病菌が原因?(1月23日号Science Advances掲載論文)
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1月30日 アルツハイマー病は歯周病菌が原因?(1月23日号Science Advances掲載論文)

2019年1月30日
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昨日に続いてアルツハイマー病(AD)の治療についての論文を紹介する。昨日も、ADはさまざまな角度から研究が進んでおり、意外な標的が見つかる可能性が高いと述べたが、今日紹介するCortexymeと呼ばれる創薬ベンチャーからの論文は、意外性が大きすぎる論文だ。もし示された結果が確認され、仮説が正しいとすると、この分野がひっくり返ると行ってもいい話で、Science Advancesではなく、Scienceが掲載したはずだ。すなわち、AD病の原因が歯周病菌という大胆な結論が提出された論文だ。タイトルは「Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains: Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors (アルツハイマー病の脳内に存在するP.gingivalis:病気の原因を示す証拠と小分子を用いた治療)」だ。

繰り返すが、実験結果はしっかりしている。まず、ADの脳組織と正常の脳組織をそれぞれ50近く集め、歯周病菌P.gingivalisが分泌するタンパク分解酵素gingipainに対する抗体で調べると、AD患者さんは圧倒的に高値を示す。実際logスケールで比べられており、その差がはっきりする。さらに組織学的に、海馬のニューロンおよびアストロサイト内にgingipainが存在することが示される。そして、組織からgingipainを免疫沈降で集められることも示している。

以上の結果は、ADの脳にはgingipainが高い値で存在しているが、正常の脳でも低いが、ほとんどの例で同じように存在することを示しており、歯周病菌が普通に脳に侵入していることを示唆している。実際、歯周病菌自体の存在をPCRで調べると、ADだけでなく、ほとんどの正常人でも見つけることができる。ただ、先にも述べたように、ADでの値は1桁高い。

Gingipainは蛋白質分解酵素だが、Tauタンパク質がgingipainで切断されることを示している。ADの一つの引き金は神経細胞内にリン酸化Tauが沈殿することだが、切断によリン酸化が起こることから、細胞内に入ったgingipainがTauタンパク質を切断、リン酸化を誘導し、細胞内で沈殿させることを示している。また、この切断サイトも特定するという念の入れようだ。

その上で、培養神経細胞に対するP.gingivalisの細胞障害性実験系で、彼らが開発しているCor286、Cor271と名付けたgingipain阻害剤が細胞毒性を緩和すること、さらに生きたマウスの脳内での細胞毒性も軽減させることを示している。

ではもう一つのAD原因因子アミロイドβタンパク質はどのような役割があるのか当然気になるが、この研究ではP gingivalisの感染により脳内に短いAβタンパク質が誘導されることを示している。そして、gingipainを欠損したP gingivalisではこのような反応が起こらない。そして、このAβの切断はP gingivalisに対する防御反応であることを示唆している。

すなわち、AβはADの原因というより、歯周病菌感染の結果で、ADの発症はTauの沈殿により細胞が失われると考えている。最後に、Cor286,Cor271投与によって、脳内でのP gingivalisの感染を防いで、神経を守れることを示している。この結果から、さらに効果の強い化合物Cor388を合成し、最終的にはこの薬剤に集中していいる。

さすが力のあるベンチャー企業でしっかり実験しているように思えるが、気になるところも多くある。まず使っている実験系で、これでAD過程が研究できているのか、あるいはただの脳の炎症と言えるのか、Tauのリン酸化が示されていないこと、アミロイドプラークが示されていないことなど、ちょっと疑わしい。さらに、実験評価に多くの指標が手を替え品を替え使われているので、本当の評価ができずまだまだ確定できないと思う。ただ、魅力的な話で、Cor388の治験により私の懸念が払拭できればいい。

ちょっとウェッブで調べてみたら、Cor388は第1相の試験が終わって、特に毒性がなかったようで第2相のリクルートが始まっている。すでに80億円以上のファンドマネーを集めているようで、第2相も進めるだろう。驚くことに、ファイザーも絡んでいるようで、まんざらガセネタでもなさそうだと思える。さてどうなるか、今後に注目したい。

カテゴリ:論文ウォッチ