1月29日 医師の責任でアルツハイマー病のラパマイシン治験を進めるべき(1月23日号Science Translational Medicine掲載意見)
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1月29日 医師の責任でアルツハイマー病のラパマイシン治験を進めるべき(1月23日号Science Translational Medicine掲載意見)

2019年1月29日
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アルツハイマー病(AD)に対する治療法の開発は高齢化する先進国にとって、最も緊急の課題になっている。これまで、βアミロイドタンパク質に対する抗体、ワクチン、アミロイドの切断を阻害するBACE阻害剤など様々な臨床治験が行われてきたが、結果ははかばかしくない。幸い、アルツハイマー病の基礎研究は着実に進展しており、これら以外にも多くの治療標的が見つかる可能性は高い。さらに、臨床治験の結果を判断する指標も、より正確に、短期で判断できるものが開発されると期待される。実際、もし新しい治療薬剤が開発できれば、世界中の患者数から考え、製薬会社はまちがいなく大きな利潤を得ることができる。従って、どんなにこれまでが失敗続きでも必ず研究を続けられると期待できる。

当然研究が進むと様々なADの治療標的分子が明らかにされると思うが、もし既存の安価な薬剤の中にそれが見つかった時、治験をおこなってくれる研究者や医師はいるのかという疑問が湧く。特に、ジェネリック薬品がある場合は、製薬企業がその主体になることは期待できない。実際このような例が、mTORと呼ばれている多様な作用を持つ分子に対する阻害剤ラパマイシンで、ADにも効果がある可能性があるにもかかわらず、全く臨床試験が行われていない。この状況を打破しようと、ワシントン大学やテキサス大学などの研究者が、ラパマイシン治験の重要性を訴えたのが、今日紹介する論文で1月23日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Rapamycin and Alzheimer’s disease: Time for a clinical trial? (ラパマイシンとアルツハイマー病:治験に進む時が来た?)」だ。意見論文なので、特に実験ということはないので、彼らの主張をそのまま紹介する。

ADも一種の老化過程: AD発症と経過に関わる最も強いリスクファクターは年齢で、55歳と85歳の間でADのリスクは700倍増加する。従って、もっとリスクとしての年齢の役割を研究すべきだし、年齢によるリスクを軽減する方法を開発するべき。

なぜラパマイシン :多くの論文が、ラパマイシンに老化を遅らせる働きがあることを証明している。これはラパマイシンの標的mTORが増殖や代謝など様々な機能を持っており、これを抑えることで寿命が伸びることが知られている。さらに、動物ADモデルでラパマイシンがアミロイドβの蓄積やTauタンパク質の沈殿を抑えることも示されている。またmTORを阻害することでADによる記憶が回復するという研究もある。

「治験失敗が恐ろしい?」:ラパマイシンはこれまでもガンや移植に利用されており、副作用についてもよくわかっているのに、どうして治験をしないのか専門家に聞くと、なんと「失敗が恐ろしい」という声が返ってきた。そしてその背景に、これまで前臨床はクリアしたにも関わらず多くの治験の失敗があるADというトラウマがあることに著者らは気づいて驚き、できればより簡単に効果評価が可能な指標を開発し、失敗を恐れずできるだけ多くの治験を行う体制を作る必要があると示唆している。

ラパマイシン前臨床試験はその第一歩:その意味で、動物を使ったADに対する効果を調べたラパマイシンの前臨床研究結果は十分行われており、臨床研究へ移行して問題はないので、これを医学界全体で進めるべきと提案している。

ラパマイシンに問題はないのか?:ラパマイシンは現在抗がん剤として用いられているが、当然様々な副作用がある。しかし、高齢者に対してもその程度は低く、5mg/weekでは副作用は大幅に軽減される。また長期使用については、移植後の免疫抑制で何年も使用されていることから、十分合理的知見を計画できる。

医師主導で治験は行われる:ラパマイシンにはすでにジェネリックも存在し、製薬企業に治験を行う動機付けは少ない。したがって、公的な助成も積極的に使った、治験がおこなわれるべきだ。

以上が著者らの意見で、熱意が伝わってくる。おそらく、多くのAD患者さんも間違いなく協力されるように思う。論文を見ていると、ラパマイシン以外にも様々な既存の薬剤の効果が前臨床で確かめられている。全世界あげて、すべての可能性がチャレンジされることを期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ