9月20日 ガンに対する分子標的薬も的を外す(9月11日 Science Translational Medicine 掲載論文)
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9月20日 ガンに対する分子標的薬も的を外す(9月11日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2019年9月20日
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ガンの根治の話になると、今は免疫療法が真っ先に挙がってくるが、ガンの増殖に必要な分子標的薬の開発も活発に続けられている。最近騒がしくなったrasに対する分子標的薬については、明日紹介したいと思うが、今日紹介するコールドスプリングハーバー研究所からの論文は、は分子標的薬として開発された多くの薬剤が、実際にはその標的ではなく、他の標的に対する薬剤である恐ろしい可能性を示した研究で、9月11日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Off-target toxicity is a common mechanism of action of cancer drugs undergoing clinical trials (標的外の毒性は現在治験中の薬剤にしばしば見られる作用機序)」だ。

この研究では現在治験が行われている薬剤の標的として報告されている分子を6種類(CASP3,HDAC6,MAPK14, Pak4, PBK, PIM1)取り上げ、本当にその薬剤がこれらの分子を標的にしているのか、そしてそもそもガンの増殖がこれら標的を必要としているのかを、クリスパーを用いて遺伝子を完全にノックアウトする手法を用いて調べている。

方法の詳細は省くが、薬剤スクリーニングに用いられたガン細胞株から各遺伝子を完全にノックアウトした細胞を作ってみると、驚くことにこの6種類の分子はガン細胞の増殖に必要ないことがわかった。なぜこんなことになるのか、例えばよく似た分子の発現が高まったりした可能性など、いくつかの可能性を調べたが、結局これらの分子は調べたガン細胞の増殖には必要ないことを確認している。

ではなぜ薬剤開発で標的分子を間違ってしまったのか?通常標的分子の必要性の確認はRNAiなどノックダウン法を用いて行われているので、ここに間違いがあるのではと考え、ノックダウンの標的分子をノックアウトされた細胞でRNAiテストを行うと、標的分子がないにも関わらず、ノックダウンの効果が見られることがわかった。すなわち、RNAiは特異性とは異なる毒性を持つことがわかった。

そこで治験中の薬剤の効果を同じように分子標的をノックアウトした細胞でテストしてみると、分子標的がノックアウトされていても薬剤はコントロールのガン細胞と同じように効果を示すことがわかった。すなわち、分子標的薬として治験中のこれらの薬剤は、ガンに対する効果があるが、他の標的を介して効果を発揮していることがわかった。

そこで最後にPBKに対する分子標的薬という名目でオンコセラピー社が現在開発中のOTS964の標的を、OTS964抵抗性の細胞株を樹立して調べると、なんとCDK11で、キナーゼではあってもPBKとはあまり類似性のない分子であることを示している。

驚くべき論文だ。もちろんここで取り上げられた多くの薬剤は、ガンに対する効果を示すため、効果があればそれでいいとも言える。しかし、それぞれの薬剤が標榜する分子標的とは全く関係ない場合は、やはり使用中に様々な不都合が出てくることは明らかで、注意が必要だ。

この研究では、どのプロセスで標的を間違うのかについてもいろいろヒントを題している。最もテストに使われるRNAiが実は人食い的効果があることを知って驚いた。結局、最初のスクリーニングで分子標的が頭にあると、それを中心に全てが進んでしまってこんなことになるのはよく理解できる。少なくとも治験中の薬剤については、完全ノックアウト細胞株でのテストを義務付けることから始めてみればいいように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ