11月15日 年寄りの便も捨てたものではない?(11月13日Science Translational Medicine掲載論文)
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11月15日 年寄りの便も捨てたものではない?(11月13日Science Translational Medicine掲載論文)

2019年11月15日
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今やテレビコマーシャルでも当たり前のように腸内細菌叢の重要性が強調されるようになっている。もちろんこの認識は正しいのだが、実際に何がいい菌で何が悪い菌か、そう簡単にはわからない。また、既に出来上がった細菌叢を自分の意のままにコントロールするなど夢のまた夢だと思う。

今日紹介するシンガポール、スウェーデン、中国からの共同研究は、この分野からの結果はまだまだ意外性に満ちている、すなわち私たちがわからないことが多いことを示すいい例で11月13日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Neurogenesis and prolongevity signaling in young germ-free mice transplanted with the gut microbiota of old mice (若い無菌マウスへの高齢マウスの便移植で誘導される神経増殖や寿命の延長に関わるシグナル)」だ。

この研究では例のごとく、無菌マウスに若いマウスの便、あるいは高齢マウスの便を移植し何が起こるかを調べている。ほとんどデータは示されていないが、高齢無菌マウスで実験を行った時はほとんど変化がなかったのだと思う。すなわち、年寄りに若い人の便を移植して若返ることはない。

ところが驚くことが起こった。すなわち、若い無菌マウスに高齢マウスの便を移植した時だけ、脳の海馬の神経細胞が増殖し、さらに脳の代謝も高まる。この原因を調べていくと、脳細胞の増殖はBDNFと呼ばれるサイトカインの分泌が上昇したためであることがわかった。

また腸管上皮の増殖も促進され、その結果腸も長くなる。これと並行してTNFαやPPARシグナルが上昇していることから、腸管上皮自体の様々な機能が高められていることがわかる。

次に、体の代謝を調べてみると、肝臓でのエネルギー代謝が高まる方向での遺伝子発現の変化が起こり、またアンチエージングに関わるAMPK, SIRT1, mTORなどの遺伝子発現が上昇することがわかった。

ここまでは意外な結果で、年寄りの便が若者の体をさらに若返らせるというなんとなく矛盾に満ちたデータなので驚くが、あとは結構常識的で、高齢マウスと若いマウスとの便の比較から、この差を誘導するのがブチル酸で、ブチル酸投与が高齢者の便と同じ効果を持つことを示している。

最初に述べたが、残念ながら老化無菌マウスでは全くこの差が検出できないことから、結局体の老化を便で克服するのが難しいことがわかる。最初は面白いと思っても、結局はあまり役に立たない話だなとがっかりするが、ひょっとしたら腸内細菌叢が若返らそうと頑張ってくれているから、老化が少しは遅れていのかもしれないともおもえる。いずれにせよ、年寄りの便も捨てたものではない。

カテゴリ:論文ウォッチ