2月6日 パーキンソン病とiPS (1月27日 Nature Medicine オンライン掲載論文)
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2月6日 パーキンソン病とiPS (1月27日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2020年2月6日
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昨日ニュースで現在京大の高橋淳さんらによって進められているパーキンソン病にiPS由来ドーパミン産生細胞移植治験の経過が順調で、最初予定して患者さん7例全員に移植が行われることを知った(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200205/k10012272871000.html)。現役時代、再生医学の実現化ハイウェイプロジェクトを、当時文科省ライフサイエンス科の石井康彦さんと始めた時(https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1045_03.pdf)、パーキンソン病の人が自動車を運転して病院から帰れたらこのプロジェクトは100点と決めていた。もっというと、ヒトES細胞が樹立されて再生医学のミレニアムプロジェクトを始めたときから、パーキンソン病の移植治療は最初のゴールと考えていた。もちろん、治験が終わり有効性がわかるまで、軽々に結論は出せないが、患者さんとともに期待している。

ちなみにこのときiPSを用いた再生治療を行うと手を挙げてくれた4プロジェクトは高橋政代さんを皮切りに、臨床研究までこぎつけた。当初の計画より、2−3年は遅れたと思うが、それでもiPSから安全に移植可能な細胞ができればよしとするゴールは達成できたと、当時を思い出しながら満足している。

このプロジェクトはあくまでも治療にiPSを使うための研究を支援したが、iPSのもう一つの重要な柱は、疾患iPSを用いて新しいメカニズムを明らかにし、治療標的を開発することだ。今日紹介するロサンジェルスにあるSedor-Cinai再生医学研究所からの論文はiPSを用いて若年性パーキンソン病研究メカニズム研究で1月27日Nature Medicineにオンライン出版された。タイトルは「iPSC modeling of young-onset Parkinson’s disease reveals a molecular signature of disease and novel therapeutic candidates (若年発症パーキンソン病のiPSモデルは病気の分子的特質を明らかに新しい治療法を示す)」だ。

ParkinやPinkといったミトコンドリアのオートファジーに関わる分子の変異がパーキンソン病の一つの原因であることがわかってから、パーキンソン病での細胞死にミトコンドリアとその分解が関わることがわかってきたが、細胞死の最初の原因になるのはシヌクレインの蓄積になる。従って、ミトコンドリアとともに、シヌクレインの分解を高めることはパーキンソン病の進行を遅らせる切り札になる。

この研究では若年発症性のパーキンソン病PD患者さんからiPSを樹立、ドーパミン神経へ分化させた後、同じように調整した正常人や高齢発症のPDと比べ、若年発症のPD由来iPSのみでシヌクレインの蓄積が起こることを発見する。一方、iPSのままではこのようなことは起こらない。すなわち、ドーパミン神経でのシヌクレインの分解が低下していると考えられるので、その原因を調べると、プロテオソームやオートファジーによるタンパク分解ではなく、リソゾームに取り込まれた後のタンパク分解が低下していることを明らかにする。

そこで、リソゾームの活性をあげるPKC刺激剤を細胞に添加すると、分解が促進する。このメカニズムを化合物を変えたり、濃度を変化させてさらに追求し、おそらくリソゾームを活性化するだけでなく、プロテアソームのタンパク分解システムも活性化することで、シヌクレインの蓄積を抑えることを明らかにしている。

以上の結果から、遺伝性がはっきりしない、しかし進行の早い若年発症のPDをリソゾーム病として位置付け、治療する可能性が出てきた。この研究でも、これがわかって、21人の若年発症PDで新たに同じ方法で調べると、1例を除いて全てがリソゾームの機能低下によるシヌクレインの蓄積が起こっていることを示しており、期待が持てる。

外野から見ていると最近iPSの分野が騒がしいが、そこでうごめく個人の思惑を全て消し去ってみると、着実に臨床へのあゆみが進んでいると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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