2月12日 腸内細菌が腸内神経活動を整えるメカニズム(2月13日号 Nature 研究論文)
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2月12日 腸内細菌が腸内神経活動を整えるメカニズム(2月13日号 Nature 研究論文)

2020年2月12日
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昨年の大晦日、常在している緑膿菌の密度を知るため、細菌同士が自分たちの濃度を知るために使っているクオラムセンシングメカニズムに関わる細菌が分泌する分子をAhRで検出して、細胞の転写を変化させるという面白い論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12031)。

今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文もAhRが細菌のセンサーとして働いているという点でよく似た論文だが、腸内の神経細胞での話で、2月13日号のNatureに掲載された。タイトルは「Neuronal programming by microbiota regulates intestinal physiology (細菌叢による神経のプログラミングが腸の活動を調節する)」だ。

腸内の蠕動は消化管全域に張り巡らされた腸管神経系と、c-Kit陽性のペースメーカー細胞により調節されている。そして、抗生物質を投与すると便秘になるという観察から、腸内細菌叢もこの活動に関わるのではないかと推察されていた。この腸内細菌叢による腸管神経系の調節メカニズムを解明するのがこの研究の目的だが、このために腸内神経系を標識して各領域から神経細胞だけ精製できるようにし、まず遺伝子発現を比べ、同じ神経細胞でも小腸と大腸では発現している遺伝子が異なることを確かめている。

こうしてリストした神経発現遺伝子は腸内に一定の細菌が存在する状況で検出したもので、この一定の細菌が遺伝子発現に影響しているのか、細菌が存在しないマウスの腸内神経の遺伝子発現と比べている。この研究では特に大腸で細菌依存的に発現が上昇する分子を探し25種類の分子をリストし、この中で神経系の活動に最も関わる可能性があるとして、腸内では神経系にだけ発現しているAhR分子に着目し、研究を進めている。

この結果もまたAhRが細菌のセンサーとして働いているという結果だが、この研究はどの分子がAhRと結合しているのかについては特定できていない。しかし、抗生物質を投与するとAhRの発現が低下し、それとともに腸管の蠕動が低下する。次に、人工的AhR刺激分子により誘導され、腸管神経の興奮に関わる分子を探索し、いくつかの遺伝子とともに内向き整流カリウムチャンネルを特定する。あとは遺伝子操作を用いて、神経細胞内のAhRが確実に腸管の蠕動調節に、腸内細菌叢依存的に関わっていることを明らかにしている。 

以上が結果で、確かにAhRが登場すると、腸内細菌叢が合成する分子が直接私たちの様々な細胞に働きかけるチャンネルができることがよくわかった。臨床的には、抗生物質投与で起こる便秘に対して、あるいは腸内細菌の変化による便秘に対してAhRを刺激する治療法も可能性があると思った。

カテゴリ:論文ウォッチ
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