9月14日 NADのミトコンドリアへの輸送経路(9月9日 Nature オンライン掲載論文)
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9月14日 NADのミトコンドリアへの輸送経路(9月9日 Nature オンライン掲載論文)

2020年9月14日
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NAD+は様々な酵素反応に関わる補酵素で、この様々な過程で電子のアクセプタートして使われていることから、細胞全体の活性を調節する通貨のような働きをしている。最近では抗老化分子と知られるSirtuinを活性化する活性を期待して、抗老化サプリとして服用している人すらいるようだ。もちろん、エネルギー代謝には必須の補酵素で、ミトコンドリア内に存在し、TCAサイクルや電子伝達系で補酵素として働くことが知られている。

私の学生時代に戻ったような教科書的な記述から始めたが、私たちが生化学で習った時代から現在まで、驚くことに、哺乳類の細胞がミトコンドリア内にNADを直接輸送する仕組みについては解明されていなかったようだ。今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はこのNADトランスポーターをSLC25A51と特定したという研究で9月9日のNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「SLC25A51 is a mammalian mitochondrial NAD + transporter (SLC25A51は哺乳動物でNADのミトコンドリアへのトランスポーターだ)」だ。

酵母や植物ではNADのミトコンドリアトランスポーターは特定されており、その相同遺伝子を探す試みが行われていたが、分子特定には至っていないと聞くと、なぜこれほど重要な分子が見つかっていなかったのかと驚く。ただ、代わりのルートは存在するので、哺乳動物はちょっと違うとあまり真剣に探してこなかったのが真相のようだ。

この研究ではミトコンドリアに発現しているトランスポーター機能を持つ分子の中で、機能が特定できていない分子を探すという、一種の消去法でSLC25A51に白羽の矢を立てて、SLC25A51分子のノックダウン実験を行い、ノックダウンによりミトコンドリア内のNAD量が低下することを発見する。データを見ると、低下の程度は中程度なのでNADでなくともNMNなどを介してミトコンドリアに入るルートがあるのだろう。

いずれにせよ、SLC25A51によるNAD直接輸送がなくなると、細胞および分離したミトコンドリアの呼吸機能が低下する。重要なことは、分離したミトコンドリアで見られる呼吸機能の低下は外部からNADを加えても、回復することはない。すなわち、NADがミトコンドリアに輸送されることが重要であることが明らかになった。

あとは本当にSLC25A51がトランスポーターとして働いているのかを、標識したNADなどを用いて確認する実験を行なっているが詳細はいいだろう。要するに、長くわからなかった(というより放って置かれた)NADをミトコンドリアに輸送する分子が特定したことがこの論文のすべてだろう。

おそらく、NADの抗老化作用への期待が、これまで当たり前として放置されてきた様々な挑戦の後押しをしているのではと想像している。

カテゴリ:論文ウォッチ