9月26日 Y染色体から見る古代人類の関係(9月25日号 Science 掲載論文)
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9月26日 Y染色体から見る古代人類の関係(9月25日号 Science 掲載論文)

2020年9月26日
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一時と比べると、ネアンデルタール人やデニソーワ人のゲノムについての論文を読む機会はずいぶん減った様に感じる。逆に、我々ホモサピエンスの歴史をゲノムから読み解く研究が増えてきた様に思う。しかし、なぜネアンデルタール人が4万年ぐらい前に絶滅したのか、この絶滅にホモサピエンスはどうか変わったのかなど、知りたい疑問は多い。当然この分野でも、さらに精度をあげたゲノム解析から、古代人間の関係を調べる研究は続いている。

今日紹介するこの分野のメッカライプチッヒにあるマックスプランク進化人類学研究所からの論文は、これまでほとんど詳しい解析が行われてこなかった古代人のY染色体の一部を正確に解読して、関係を調べた研究で9月25日号のScienceに掲載された。タイトルは「The evolutionary history of Neanderthal and Denisovan Y chromosomes (ネアンデルタール人とデニソーワ人Y染色体の進化)」だ。

最初に古代人ゲノム解析が行われたのは当然のことながらミトコンドリアDNAだった。その結果、ネアンデルタール人は現代人と40万年ほど前に別れたことが推定されたが、その後体細胞ゲノムの解読が進んだ結果、ネアンデルタール人とデニソーワ人は、我々人類から60〜70万年前に分離した先祖から分かれた種であると推定された。両者の推定の違いを説明することはなかなか難しいが、デニソーワ人とネアンデルタール人が別れたあと、現代人の交流を通して現代人の母由来のミトコンドリアがネアンデルタール人に流入し、この系統に由来するネアンデルタール人が、デニソーワ人と共通のミトコンドリアを持つ集団を置き換えてしまったと説明されている。

この研究では母系を代表するミトコンドリアの代わりに、男系を代表するY染色体に焦点を絞って古代人ゲノム解析を行っている。ただ、体染色体と異なり、小さなY染色体の精度の高いゲノム解析は進んでいなかった。

この研究では比較的保存状態の良いデニソーワ人2体、ネアンデルタール人3体のDNAサンプルから、6.9Mbに相当するY染色体で組み換えの心配のない幾つかの領域と結合するDNAを濃縮し、これらについて解析を行っている。5万年前のスペイン出土のネアンデルタール人については、ほんの一部の領域の解析ができただけで終わっているが、あとはほぼ狙った領域全体のゲノムの解析ができている。

こうして得られたゲノムの違いから、各個体の持つY染色体の進化を計算するのだが、研究の大部分は用いたデータや方法から正しい計算が可能かについての検証に割かれている。

これを全て認めると、体染色体とは全く異なる進化の道筋が明らかになる。デニソーワ人と現代人のY染色体の分離は体細胞ゲノムから計算される結果とほぼ一致する。しかし、ネアンデルタール人と現代人については、35万年前後と計算された。

すなわち、ミトコンドリアゲノムと同じで、Y染色体で見ると、ネアンデルタール人は現代人に近いことになる。解析できた配列の量は少ないものの、最も古いネアンデルタール人のY染色体は、他の2体よりデニソーワ人に似ていることを考慮すると、ミトコンドリアゲノムと同じで、我々現代人のY染色体がデニソーワ人から分岐した後のネアンデルタール人に交雑を通して流入し、本来のネアンデルタール人のY染色体を置き換えてしまったと考えるのが妥当ではと提案している。

古代人間の競争だけでなく、ミトコンドリアでもY染色体でも、結局ホモサピエンスがネアンデルタール人を既に駆逐する勢いにあった様だ。

カテゴリ:論文ウォッチ