9月16日 γδT細胞が不安を煽る(9月14日 Nature Immunology オンライン掲載論文)
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9月16日 γδT細胞が不安を煽る(9月14日 Nature Immunology オンライン掲載論文)

2020年9月16日
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米国の神経科学者Carla Shatzが、MHCがノックアウトされると神経の可塑性が損なわれることを発表した時は、誰もが驚いたが、免疫反応や炎症が神経発生に関わることは今や誰も疑わなくなった。例えば昨年12月、自然免疫反応でIL-17aがを脳内に誘導すると、社会行動異常を改善できることを示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/11969)。

この時はまだまだ現象論に止まった研究で、面白いというだけで掲載されたのだと思うが、メカニズムにさらに踏み込んだ論文がバージニア大学のグループからNature Immunologyに発表された。タイトルは「Meningeal γδ T cells regulate anxiety-like behavior via IL-17a signaling in neurons (髄膜のγδT細胞はIL-7aシグナルを介して神経細胞に働き不安様の症状を調節する)」だ。

この研究では最初髄膜に存在するリンパ球の種類についてなんども紹介したCyTOFという技術を用いて解析する中で、意外にも末梢にはほとんど存在しないγδTが存在し、しかもCCR6ケモカイン受容体と炎症性サイトカインIL-17発現に関わるRORγ分子を発現し、刺激によりIL-17を分泌する極めてユニークなサブセットであることを発見する。

血管をつなぐパラビオーシスなどを用いて髄膜γδT細胞の発生過程を調べると、生後すぐに脳内に移動した集団がそのまま脳内で居続けるが、成長後に循環を通して置き換わることはない。

このユニークな細胞の機能を調べるため、γδT細胞をノックアウトしたマウスの様々な脳機能を調べると、ノックアウトされたマウスでは活動力が高まり、原則的に不安を感じなくなっていることを発見する。ただ、ノックアウトマウスは全身でγδTが欠損しているので、脳内に抗体を注射してγδTを除去する実験も行い、不安様症状を誘導しているのが髄膜に存在するγδTであることを確認する。

以上の実験からγδT細胞が脳内での不安誘導に関わることがわかったので、次はこの作用をIL-17aが媒介しているのか、脳内への抗IL-17a抗体投与、あるいは脳内の細胞でだけIL-17a遺伝子をノックアウトする方法を用いて実験を行い、IL-17aの作用を抑えることで、不安が解消することを明らかにしている。

次の問題はIL-17aが直接神経細胞に作用してこの効果が得られるのかだが、特に前頭皮質の神経にIL-17受容体が発現していることを確認したあと、神経細胞特異的にIL-17受容体をノックアウトする実験を行い、IL-17受容体が欠損したマウスでは不安症状が抑えられることを示している。

最後にIL-17aの細胞レベルでの作用を調べて、神経興奮の頻度が高まること、活動電位は変化しないことなどから、神経興奮を変化させるというより、興奮に必要神経伝達因子の分泌過程に働き、興奮の閾値を変化させるのではと考察しているが、詳細はいいだろう。

IL-17のソースおよび神経への直接作用など、ようやく頭の整理がついた。IL-17の神経細胞への作用は最初意外な現象と思ってしまうが、妊婦さんの感染や炎症が、妊娠後期でも胎児の脳発達に影響することを考えると、重要な分野に発展する予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ