9月24日 ウイルスのポリメラーゼ阻害剤を合成する細胞システムViperinの進化(9月16日号 Nature 掲載論文)
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9月24日 ウイルスのポリメラーゼ阻害剤を合成する細胞システムViperinの進化(9月16日号 Nature 掲載論文)

2020年9月24日
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アイソトープとレントゲンフィルムを用いてDNA配列を決めていた頃使っていた方法の一つが、サンガーらにより開発されたチェーンターミネーター法で、ポリメラーゼによってdeoxyNTP の代わりに、dideoxy NTPを取り込ませることで、それ以上のDNA伸長を抑える反応を利用している。

実は現在ウイルスのゲノム増殖抑制に使われる多くの薬剤も、ウイルスポリメラーゼによりゲノムに取り込まれてゲノムの伸長を抑えるチェーンターミネーターで、アビガンや、ヘルペスに対するアシクロビル、エイズに対するAZTなどが有名だ。

今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は我々の体の中でこの様なチェーンターミネーター作用を持つ核酸アナログを合成する仕組みの進化についての研究で4月16日号のNatureにオンライン掲載された。タイトルは「Prokaryotic viperins produce diverse antiviral molecules(原核生物のviperinは様々な抗ウイルス分子を合成する)」だ。

この論文を読むまで全くViperinについて知らなかった。インターフェロンは、RNA分解、翻訳阻害、RNA編集、NO産生、キラー誘導など様々な分子を総動員してウイルスの増殖を妨げるが、その中の一つで、CTPをウイルスRNAの伸長阻害するチェーンターミネーターddhCTPに変換する酵素だ。ということは、私たちの体の中にもチェーンターミネーターを合成する仕組みがあることを意味している。

この研究では、人間のViperin遺伝子と相同性を持つ遺伝子が細菌や古細菌など原核生物にも存在することに着目、私たちが持っているViperinは原核生物で最初に生まれた分子をルーツとしていることを明らかにする。

次に、原核生物Viperinの中から、抗ウイルス活性を持つpViperinを選び出し、その機能について調べている。pViperinは他の抗ウイルス防御システムとリンクして原核生物ゲノムに組み込まれており、ファージウイルスなどDNAウイルスの増殖を抑える働きがある。驚くことに、人間のViperinを大腸菌に導入しても、ファージウイルス抑制作用を持っている。

ただ、CTP特異的に働いてddhCTPを合成する人間のViperinと異なり、pViperinの基質は様々で、GTPやUTPに作用してチェーンターミネーターを合成するViperinも存在する。また、RNA依存性RNAポリメラーゼだけではなく、DNA依存性の転写過程でもチェーンターミネーターとして働く子をと明らかにしている。

以上が結果のすべてで、生命誕生以来ウイルスに生物が悩まされ続けている歴史がわかるとともに、個人的にはViperinという内なるチェーンターミネータ合成システムを知ることができ、大変面白い論文だと思った。

ただ、全体のレベルで見たとき、平時ならNatureに掲載される確率は低かったのではとも感じるが、コロナ禍の今、原核生物にこれほど多様なチェーンターミネーターを合成する仕組みがあるのなら、新しい抗ウイルス薬を原核生物の中から探し出せる可能性が示された点を評価されたのだと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ